エリザベス・ムーン くらやみの速さはどれくらい

帯には「21世紀のアルジャーノンに花束を」とあります。今より少し先の時代で、乳幼児の頃に処置を受けると自閉症が治療できるようになった時代です。ある程度神経回路が完成された大人では治療により改善するものの完全に治ることはありません。
 主人公のルウは自閉症ではあるものの「物事のパターンを見つける」才能に恵まれており、その能力を生かして製薬会社で働いています。ルウは「ノーマル」な人間との差異に戸惑うことはあってもうまく周りとやり取りしていました。会社では自閉症患者を一定数雇っており、そのための施設も整えています。それに不満を持った会社の上層部が、新しい治療を持ちかけてくる、という話です。
 帯にあった文言から、ルウは作品の早い段階で治療を受けるものだと想像しながら読んでいましたが実際は違っていました。自閉症患者がどのようなものの見方をしているかとか、それに対して周りの人間はどう思っているのかを丁寧に描いた作品だと思います。
 最近いろんな知識がウェブで見られるようになったからか、自分のことをある疾患の傾向があると言う人がいたり、他人のことをそう言う人がちらほら見られます。自己判断はよくないと思うのですが、そういったことはさておいて、正常とはどんなことだろうと考えるきっかけになりました。本作品でいう「ノーマル」な人々は、正規分布で言えば平均値プラスマイナス2SDぐらいにいる人を指しているのでしょうか。それにしたって何が正常かはとてもあいまいです。国からその他の補助を考えると境界にいる人は逆にはっきりと病名をつけられる人のことをうらやむかもしれません。もちろん、そういった補助はあってしかるべきだと思うのですが、人口に対する割合がある程度以下でないと制度として成り立たないし、そうなるとどこかで線を引かないといけないのですが、とても難しいことだと思います。
 自分は正常だと思っている人たちが、病名をつけられるような人に対してどのような態度で接するのかがこの作品では描かれています。その姿勢が正しいかどうかはわからないし、どうされるのが彼らにとっていいのかもよくわからない。自分ならどうするだろう、どうされたいだろうと(現実には立場が変わることはないのでしょうが)いろいろと考えることが大事だと思います。いつまでたっても全ての人が同じになることはないし、それでいいとおもうのですが、他人との差異を気にしないで生きていられる世界になればいいな、と思います。それがどういった世界なのかはまだ想像できないし、いつか来るはずだ、と楽観視も出来ませんが、今生きている間は無理だとしても少しずつよくなっていけばいいな、と思います。