有川浩 フリーター、家を買う

フリーター、家を買う。

フリーター、家を買う。

 有川浩さんの作品としては珍しく重たい話題からはいる話。普段とは異なる味わいですが、主人公の武が成長する姿は爽快です。幸運なことにフリーターを経験することなく就職することができましたが、いろいろと考えることがある作品でした。たとえば、フリーターにはならなかったものの今の会社で働き続けることに間違いはないのか。作品では、なんだかんだ言って優秀な上司がいて、居心地のいい会社に就職します。今いる会社の居心地が悪い、とまでは言いませんがいろいろと不満は多い。もちろん、この作品に出るような会社でも不満はたくさんあるのだとはおもいますが。
 身近に鬱になったひとはいないにしても(自分が一番危うい気はする)、いまどき潜在的な患者は多いのでしょう。この母親はよくがんばったなあ、とおもう。気の利かない子ども、といういみでは主人公と同じなので耳が痛い話でした。こんなに陰湿な人は近くにはいなかったとおもうけど、親の話を聞いていても庭が放置されているとかそういう話はしていたので度がすぎるとそれとなく村八分になっていた人もいたのかもしれない。こういう陰湿さって、街の人どうしが知り合いだと犯罪を防げるとかいう話と背中合わせだとおもう。もちろん、有る程度許容しているのだろうけど。
主人公は有る地点を境に劇的に成長しますが、なかなかこうはいかないだろうなあ。そもそも、仕事場の人がみんな良いひとすぎる。しかし、逆に考えれば仕事場の人がいいひとだったらこれだけ成長できるのだともいえる。いわゆるWin-Winの関係になっているし、良いこと尽くめだ。この話では、主人公が一転正社員になったことをねたむひとはいないけど、現実だったらどうだろう。そこは、分からない部分でもある。工事現場で働いたことはないし、アルバイトも体力の要らなさそうなことしかしていない。ただ、一緒に働いていると、ちょっとぬきんでている部分(いいところも悪いところも)見えてくるな、とはおもうし、後輩とかだったらそこを伸ばしてあげたいとおもう。
いつもの有川浩作品のようにあまあまではないけれど、真面目な恋愛模様が少しだけ描かれていました。それにしても、緊張してどす黒くなるのは緊張しすぎでは、なんておもったり。もしかしたら、女性側の親とかが病気に対して偏見を持つことも有るだろうな、と想像しながら、それでも上手く行けばいいし、たぶん親(世代)との接し方をしった主人公は上手くやれるのではないかな、と描かれていない未来を想像した。