[読了]中田永一 くちびるに歌を

くちびるに歌を

くちびるに歌を

中田永一さんの作品をアマゾンで検索したら、普通に乙一さんの作品が並んでいて、ああ、乙一さんの別名義だったのね、と受け入れた。乙一さんは、映像の方に興味をもっているみたいだったので、中田永一さんが乙一さんとはおもわなかったけど、知ってしまえばなるほど、とおもう。乙一名義の作品と比べると、ひねくれている部分がうまく隠されているような気もする。
さて、作品だけど、とてもおもしろかった。あらすじはまあ、どこかのサイトに書いてあるだろうから避けておこう。この作品では自閉症の兄をもつ少年が主人公だ。親は、どういうつもりか、この兄を支えるために彼を産んだ、と少年に伝えてしまう。もともとその通りだったこともあるのだろうし、手助けをさせるためにはそのことを伝えておかないと、と考えたのかもしれない。こどもが理由もなく親の手伝いをすることはあまり無いからだ。先に生まれた子を助けるために、とおもって授かった子供は結構たくさんいるだろう。この少年は比較的素直に育っているけれど、ぐれてしまう子もたくさんいるのではないかと想像する。大人になってからだと、そういった事情は理解できる。子供がほしい、というだけで相手に愛情が無いこともあるだろうし(肯定はしないが)、白血病などで、適合するこどもがどうしても欲しい場合もある、と理解できるのだけど、それをこどものうちに伝えるのはいかがなものか。主人公たちと同じ年のころ、親から、お互い嫌いあっているけれどお前たちが生まれたから仕方がなく一緒にいる、といわれたことがある。仲がいいわけではなかったので、そうだったのか、とおもった一方で、こどもをいいわけにするなと頭にきたものだ。その世代の人間には結構多いのかもしれない。その話を聞いてしばらくして、結局別れたので、こちらの態度にでたのかもしれない。今となってはかれらは別れて正解だったのだろうとおもう。しばらくは、異性に対してぎこちなくなってしまった、とこちらも言い訳をしてしまいそうだけど、それはもともとの性質だったのだろう。大人になってから、たぶん、彼らもそれほど大人ではなかったのだ、と理解できる部分はある。あるけれど、やはりこどもに対してはそういったことを伝えるべきではない。
作品に出てくる子供はとても素直だ。そんな素直な子供ではなかったので、素直になれることが羨ましかったりする。でも、素直ではなかったからこそ、小説に登場する素直な子供たちを見て、素敵だと感じられるのかもしれない、と少し前向きに考える。こどもはとても不自由だ。行く場所も、環境もほとんど選ぶことはできない。その不自由さの中で、懸命に生きる姿がまぶしい。今の子供たちも、こんなに素直なのだろうか。素直さや素朴さは、大人が勝手に望んだものかもしれないけれど、確かにあるようにもおもう。閉塞した感じが世の中を覆っているのだけれど、未来のある子たちが、未来に期待できるような世の中になって欲しいものだ。話がおおきくなっているので、このあたりで終わるとしよう。