米澤穂信 黒牢城

 

 

一部史実に基づいた話、なのかどうかは正直わからない。有岡城の戦いを舞台に、城主と、城主に囚われた黒田官兵衛の物語。全般的に教養と言われる知識が足らないのだけど、その中でも歴史に疎い。本作でも詳しい人が読んだ時にみるポイントとはおそらくずれているのだろう。

歴史に疎いのもあり、国内の史実に基づいたフィクションを読むことがあまりない。宮本武蔵ぐらいかも。一方で、海外の歴史ものはあまり苦手ではない。藤本ひとみフランス革命前後を書いたものや、佐藤賢一の古代ヨーロッパを描いたものは面白く読めた。日本の歴史ものは、現在につながる部分が感じられるから読みにくいのかもしれない。

本作は、ミステリ仕立てになっているものの、建物の高さや構造がよくわからなかったり、どういう精神性で行動しているのかがわからなかったりで、推理は全くできなかった。面白かったのは、上下関係とか、何に価値を置いているのかとか。人の価値観は、その時々で異なるのはわかるのだけれど、それほど昔ではないのに共感できないことも多い。トップはひたすらいろんなことを考えている一方で、部下たちはあまり考えておらず、自分のベストを尽くせばいいや、と考えていればまだましな方。まあ、戦力と考えると思い通りに動かないほうが計画を立てづらいのかもしれない。作者が米澤穂信なので結構信頼しきって、本当にこういう社会だったのだろうと思って読んでいた。女性があまり出てこなかったのが残念と言えば残念。

面白かったのは面白かったのだけど、先にも書いたように想像できる範囲が狭かったので、ミステリとしてはあまり楽しめなかった。作家としては、いろんなスタイルに挑戦したいものなのかな?歴史小説ばかり書いている人もいるけど、米澤穂信はファンタジーを書くこともあるので、いろんな形式でミステリを書きたい人なのかもしれない。まあ、そのファンタジーの作品も今一つ周りの評判ほどは楽しめなかった。楽しむにもそれなりの資質というか、理解する能力はいる。米澤穂信は、読了後に他の人の感想を読むことがあるのだけれど、あまり理解しきれていなかったのだろうか、と思う作品もちょくちょくある。よく読みこんでいる人がいるものだ。氷菓は、他者の感想と同じく楽しめた。ほとんどの作品は、個人的にはどれも楽しめているのだけど、もっと楽しいのかもしれないと思うとちょっと悔しい。でもまあ、とても楽しめる作品を書いてくれる人なので、これからも楽しみに待つ。ちなみに、単行本になった作品は全部読んでいるはず。