西式豊  そして、よみがえる世界。

 

 

アガサ・クリスティ賞を受賞した作品。講評が比較的どの作品に対しても優しい。本作は、受賞したときの感想で、そのあと修正したかどうかはわからないけど、指摘されている点は確かにもっともだと感じた。応募作をたくさん読んでいてもきちんと読めるのはさすが本職。

舞台は今から少し先の未来で、VRが急速に発達した世界。細かいことを書くと内容に触れてしまうので、VRがどれくらい進歩するのかについて、考えていることを書いてみる。ソードアートオンラインでは、頭の外側に装置をつけることでVRの世界に没入することができる。途中までしか読んでいないので現時点でどの程度表記されているのかはわからないけど、視線を読んだり、行動の一歩先を読めたりできていたと思う。実際にそれができるには、いわゆる脳波を読むだけでは不可能だろう。装置の解析能力の問題ではなく、いろんな興奮をまとめた複合的な脳波を見るだけでそんなに細かい状態が再現できるとは思わない。では、将来のVR技術はどのようなものになるだろうか。残念ながら、架空の世界の中で本当に生きているような感覚を再現できる装置は現れないと予想する。侵襲が少ないデバイスで、感覚を再現することは不可能だろう。視覚は比較的ごまかしやすい感覚なので、見るだけでいいのならある程度架空の世界に近づける。でも、実際に体が動いていないのに動いているような感覚を持つためには運動神経を遮断したうえで体を動かしている間隔をフィードバックする必要がある。これは10年や20年で何とかなるとも思えない

人間をデジタル化して、VRの世界で生活することは多くの本で描かれているけど、実際には不可能と考えているので、自分にとっては不可能な技術をあるように見せられるよりも、異世界転生のほうが、受け入れやすい面もある。できそうなこととできなさそうなことがわかってしまうので、近未来を描く方が難しいと思う。現在でも、実際に最新の機器を使っている人でその仕組みを完全に理解できている人は少ない。きっと未来でもそうだし、よくわからないけど結果としてこういうことができる(カニズムを書かない)、というガジェットであれば受け入れやすいかも。例えば、ある作品では太陽光で動く蝶がいて、情報を集めたり壊れた機械を分解したりしていたけど、そんなに違和感はなかった。