神林長平 小指の先の天使

小指の先の天使 (ハヤカワ文庫JA)

小指の先の天使 (ハヤカワ文庫JA)

 初神林作品です。仮想空間に人間が移行すればどうなるかを主題とした作品集でした。SFが苦手という意識はあまりないのですが、いろいろと設定について考えたり理解するための時間が必要だったりで読むのに時間がかかってしまいます。
 近未来は果たして仮想空間への移行が進んでしまうのでしょうか。進んでしまえばどうなってしまうのかをSF作家は考えて考えて作品を作り上げていると思います。神林長平さんはそれでも人類に対する希望を持っているのだな、と感じられる作品ばかりです。同じく、人類にある程度の希望を持っているので共感できる部分も多い。その一方では、残された肉体は消耗していくばかりであるとか、残酷な一面も見せています。
 桜庭一樹さんの解説にもあるとおり、作品の間に20年もの感覚が開いているとはとても思えないほどすぐれた作品ばかりでした。それだけ未来に対する感覚が卓越しているということでしょうか。今の若者とはきっと仮想空間に対する感覚が違うのだろうな、と想像していたのですが、この作品集で違和感を感じないということは昔の(といっては失礼かも)読者とあまり感覚のずれはないのかもしれません。生きているうちに仮想空間へ完全に移ることはないでしょうが、遠い未来に一部では現実となるでしょう。その頃、昔描かれた作品に現在の様子が描かれていた、とか言われていたら面白いな、と思います。