古橋 秀之 冬の巨人

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

時間の長さを巨人が歩く歩数で測る人々。その理由は、彼らが巨人の上で生活をしているから。外は極寒の地であり、雲で覆われ太陽は見えない。巨人を中心とした視点しか持たない街の人々とは異なり、巨人の外から街を眺めようとする変わり者の教授とその弟子。住人は見ようとしていないのか、目を背けているのか…。
狭い範囲で限定された世界の話には「キノの旅」のそれぞれの国の話があります(他にもたくさんあるでしょう)。この話もどこかに通ったところがありますが、紙面の分描写が細かかったり、設定が多かったりします。「キノ」に似ているなと感じた部分は、その都市(国)の住人がその世界をすべてだと考えている節がある部分で、全体を、と言っても都市を外から見てみようとする人は異端だとされる部分です。
正統派だと思っている人々と、異端だとされる人々。それぞれが都市のことを考えているのですが、立場の違いから受け入れられないこともあったりするのですが、もちろん思いが重なる部分もあって、そのあたりのすりより方がもう少し書いてくれても良かったかな、と思います。
このままで終わるのだろうかと思っていたところに示された最後の数ページで感動してしまいました。その場面の映像が頭の中で展開して、今後の困難は絶えないのでしょうが、この場面に遭遇したらその感動で何とかやっていけるのかも、と希望を抱く場面です。
少しだけ内容に触れる部分を書きます。
最後の場面を見て(読んで)思ったのは、熱量の話はどうなったんだ、とか、もともと住み始めた人たちはどうやって登ったんだと言う事。後者については、少し考えて思いついたのは、巨人も始めはそれほど大きくなかったのかも知れないとか、街があったところに(地下から)巨人が盛り上がっていったとかですが、そのあたりはたいした問題ではないのかもしれません。
寓話めいた話として読むなら、閉じられた社会でも貧富の差が生まれる理由とか、信仰とは何かとか考えるきっかけになるかもしれませんが、あまりそういった読み方がしたいわけでもなく、巨人の上に街があるなんて凄いなあ、とか空飛ぶ少女ってどこから来たのだろうとか楽しみながら読みたいし、読みました。
もっと長編でも楽しめるかな、と感じる作品でしたが序盤が冗長になるような気がするし、そこで読者がついてくるかどうかが怪しいかもしれません。全3巻ぐらいでも良かったとは思います。映画の原作にもなりそうな作品です。想像通り作られるのかわかりませんが、もし映画やアニメになったら見てみたい作品でした。