有川浩 図書館革命

図書館革命

図書館革命

 シリーズの締めくくりとあってこれまでのようなやり取りは少し期待できないかなと思っていて、実際にそういった場面は少ないのですがその分濃かったかもしれません。シリアスな場面で出てくる滑稽さというか、それが後になって落ち着いてみるとすごく気恥ずかしいというこれまでのパターンにのっとって展開しています。堂上もまじめ一本やりかと思いきや意外と郁をからかうところもあったり、それでいて他人にはからかわれるのを嫌がったりします。郁は相変わらずの直情っぷりと言うか、想いに自覚したら結構のめりこむ方のようで、読んでいるこちらが照れてしまいそうなくらいですが有川小説はそれくらいでないと、と思います。
 恋愛関係以外で特におもしろかったのは「お金に糸目はつけずに」とったあの行動。そして機転。素晴らしい。聞いてみれば納得でもあの場であの発想が出ることに感動です(ちょっと大げさ)。作品を通じて一番格好よかったのは稲嶺さん。本当に格好いい。今回も出番は少なかったけど家の話とかとてもよかった。これだけ素敵な大人が今どれくらいいるのだろうかと思う。
 物語は検閲をめぐっての話なのでいろいろと考えないといけないなと思う部分と、もしこんな事態に遭遇したら何をするだろう、何ができるだろうと考える部分があってそういった意味では読者にテーマを投げかけることができた作品ではないかと思います。ただ、それは物語の主軸なのではずして読むわけにはいかないもののそこまで真剣にとらえる必要はなく、娯楽作品として楽しめば良いのではないでしょうか。あとがきにもありましたが、いろいろと想像できる余白を残してくれたことが嬉しい。勝手に想像するのも楽しいのですが、読者としてのその楽しみを理解しつつわざと書かないでいる部分があることが嬉しい。いい意味で読者に近い感覚を持っているひとなのだなあと感じます。それでも手塚と麻子の話はもうちょっと書いてほしかったし、小牧と鞠江の話ももう少し読みたかった。そう思っている時点で作者の思惑に乗ってしまっているとは思うのですが。
 この作品はアニメや漫画になるようです。特にこれといった作品を頭に浮かべて言っているわけではないのですが、アニメ化とか漫画化されるとどうも「ちょっと詳し目のあらすじ」をアニメ化とか漫画化しているような印象があってあまりまともに見る気になれません。蟲師は良かったかな、と思いますが、最近のアニメが全部あの質を持っているとはどうしても思えないし。見もしないでぎゃあぎゃあ言うのも何なので、余裕があれば一度みてみてもいいかも、とは思っています。