有川浩 図書館危機

図書館危機

図書館危機

 これまでの作品を読む限りでは体力勝負は強いものの全体としては劣等性に見えていた郁ですが、中央にいるから、周りがエリートだからそう見えているだけで、地方から見れば憧れの人物だったようです。確かに、女性第一号ともなれば同じ仕事をしている人にとってはパイオニアでしょうし、あこがれる気持ちもわかります。
 それとは別に、昇進試験に臨んだ郁と同期たちですが、ここでも郁は意外な能力を見せます。意外ではないですね。自分の能力の生かし方を知っていることに少し驚きました。少々見くびっていたようです。これまで完璧に見えていた手塚も弱点を少しずつ露呈し始めています。お互いが補い合える存在になっていくのかな、と思います。
 郁の恋愛模様は相変わらずですが、(他人の恋愛では)すれ違いがあってこそ面白いですね。堂上もわかっているのかわかっていないのか、郁を励ましたり、諭したりする中にもやさしさがにじみ出ています。じつはわかってやっているんじゃないかと疑っているのですが、これまでの描写だと直情径行型(上司になっているのでさすがに無謀な行動はしませんが)のようなので、あくまでも天然のようです。それならそれで恐ろしいひとです。手塚と麻子の関係もほんのちょっぴりですが前進しているようです。
 それよりも何よりも、今回大活躍だったのは玄田です。折口との関係は大人らしく節度あるものですが、還暦までまとうとか言わずにもう少し何とかならないものか、と思います。
 この作品のいいところは主人公一辺倒な描写ではなく、脇役もしっかりと格好よく描かれているところです。稲嶺も格好良いし、狙撃隊の新藤も出番は少ないながら格好いい。はじめは頼りなさげだった地方の女性隊員たちも成長しているし、そのあたりがとても痛快で読んでいて気持ちがいい。
 残りはあと一冊のようです。この話は図書館の話であると同時に郁と堂上の恋愛物語です。これまでになく長い作品でしたが、きちんとまとめてくれるのは間違いないと期待しています。それぞれで語りきれなかった脇役たちはきっと別のところで描かれるに違いありません。そう期待して、最終巻を待ちたいと思います。