細音啓 イブは夜明けに微笑んで

 富士見ファンタジア文庫の受賞作です。このレーベルを購入するのはとても久しぶりな気がします。文庫ごとのフォントがあるのか、少し懐かしい。
 物語は、名詠という手法を使っていろんなものを召喚できる世界の話で、少年少女だった子供たちと、今現在の子供たちが成長しようとします。設定は面白いと思うし、キャラクタも良いと思うのですが一冊にいろいろと盛り込もうとしすぎているのが残念。受賞作ということは当然応募作品なので、それなりに話を盛り上げたり登場人物の活躍する場面を入れたりしなければいけないのでしょうが、もっと長いスパンで展開してくれたらもっと面白くなっただろうな、と思うだけに残念です。漫画では、読みきり作品が好評だったときに連載を持って、読みきり時の設定はそのままに話の展開をやり直すことがしばしばあるのですが、この作品もそういった形でもう一度描いて欲しいな、と思える作品でした。小説ではそういった形は難しいと思いますが、このあと話を続けるためには回想シーンとか、後付設定などがたくさんになって興を削がれる可能性も考えられます。上手くつなげられたらこの続きでもいいのですが、思い切って別のシリーズを描くのもいいかも知れません。なんとなく、一冊では力量をはかりきれないタイプの作家だと思います。今後に期待。