山形石雄 戦う司書と雷の愚者

戦う司書と雷の愚者 BOOK2 (集英社スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と雷の愚者 BOOK2 (集英社スーパーダッシュ文庫)

 「本」を管理する図書館に怪物がやってきた。驚異的な再生能力と攻撃力をもつ「怪物」は武装司書3人に相対しながらも逃亡に成功する。一方、先の戦いで死亡した司書の「本」が何者かに盗まれ、見習い司書のノロティがその奪還の任務についていた。攻撃力は十分司書としての能力を持っていたが、殺さないと言う信念と、不器用さから任務に成功したことがないノロティは、ハミュッツ・メセタから極秘任務を指令される。ノロティはメセタの指令を遂行できるのか、そして怪物の正体は……。 
 笑えない、と言うことは意外と良くあることかもしれません。幼いころは心のそこから笑っていたような気がするのですが、大人になってからは愛想笑いのほうが圧倒的に多い。つまらないわけではないけれど、馬鹿笑いするほどの出来事は余りありません。内容よりも、誰とその出来事を楽しんでいるかのほうが問題かもしれません。
 この物語は、これまでの小説だったら脇役である登場人物に視点を向けていると言う点が良いと思います。主役はあくまでもハミュッツ・メセタですが、彼女はあまり本編には登場しません。その代わり、本来なら深く描写されることはないであろう登場人物に光が当てられる。そのため、感情移入すべきキャラクタはことごとく酷い目にあいます。そう言った意味では西尾維新さんに近いかもしれないとも感じますが、西尾維新さんの、たとえば戯言シリーズではいーちゃん語り部であり、主要なキャラクタを勤めています。でも、このシリーズではハミュッツ・メセタ視点の描写がありません。
 そのため、神の視点から物語を描写しており、時制や描写にぶれがあったり、感情移入しにくい部分もあります。でも、本を読むことで持ち主の経験を追体験できるという設定を持ち込むことで、視点がぶれると言う弱点を長所に変えているのではないか、と感じます。
 前島重機さんのイラストは色付きの絵と作中のイラストでの完成度の違いと言うか、力の入れ方の違いに愕然としてしまいます。これなら作中のイラストは不要なのでは?巻頭の絵が美しいだけに、下書きを見せられているような感覚です。下書きのような荒い線が魅力となる絵師もいますし、前島さんもそう言ったイラストを描くことが出来る人かもしれませんが、このイラストはちょっと手抜き感あふれるものでした。
 自ら得たものでなければ空ろなものだ、と著者が伝えようとしたかどうかはわかりません。物語自体はとても面白いし、このスタイルも気に入りました。次回作にも期待大です。