有川浩 図書館戦争

図書館戦争

図書館戦争

 昭和の終わりとともに成立した「メディア良化法」。この法案は、青少年に悪影響を及ぼすと判断された書籍を取り締まるための法案だった。対抗するように発足した「図書館の自由法」と呼ばれる図書館法第四章。自由度の高い両法案が対立を続け、ともに武装化にいたる。笠原郁は高校生のころであった図書隊員の影響を受け、入隊する。女性初の特殊隊員に抜擢された郁は意気込みとは裏腹に失敗を繰り返すが、不器用ながらも図書隊員として一人前になるため努力を重ねていた。
 青少年に影響を与える文化として教育機関との戦いの矢面に立っているのが図書館と言うところに、著者の本に対する並々ならぬ愛情を感じます。それだけ影響力が大きいはずだ、と考えているからこその設定でしょう。はじめに(現実には)ありえない設定をしてあとは突っ切っていますが、所々でメディアに対する考え方などが現れていることがとても面白い。もちろん、登場人物が語っているだけであって必ずしも作者の考えではないかもしれませんが。
 どうしても戦闘ものが好きなのでしょう。自衛隊関連から離れたと思ったのですが(とは言いつつタイトルで推測はできます)やはり戦闘ものでした。得意分野だけあって描写が堂に入っているだけではなく、作品としてもとても面白い。
 過去の作品とと比較することは必ずしもいいことではないのかもしれませんが、今回も頭が良くて冷静な士官(?)と能力はあるけれど口下手で、正直に思いを口に出せない同僚が登場します。作者はきっと後者のほうが好みなのだろうな、と言う印象です。この組み合わせは(読者として)結構お気に入りで、バランスのとり方がいつも上手だな、と感心します。そして、扱いづらい子供たちが出てくるのも似た傾向にあるのですが、子供が登場したときに思わず笑ってしまう場面がありました。そして、同僚に対する援護射撃なのか、「荒野のカナ」なる小説も登場し、やはり作者自身の本に対する意識を感じます。
 今回は主人公がその組み合わせではなく、新人の女性が主人公です。元気がいい部分がとても魅力的ですが、今の日本では干されてしまうキャラクタかもしれません。だからこそ、その資質を認められ、彼女が成長し、活躍することにカタルシスを覚えます。ほかの登場人物も皆魅力的で、好みもあるのでしょうが、有川さんの筆力を感じます。生真面目な手塚、一見奔放だけど思慮深い柴崎、信念を持つ館長の誰もが皆格好いい。
 始めから何でもできる人間なんていやしない。どれだけ経っても自分の至らない部分に気がつけることが向上できる人間の資質かもしれません。子供は子供なりにできることがある。そして、未熟でも大人と呼ばれる人間は子供よりも成長しているのだ。さらに年齢を重ね、成人したばかりの若者から見れば老獪に思える人でも、葛藤はあるし、後進に残せるもの、伝えるものを考え続けている。本作はそういった格好いい信念を持った人が多く登場します。本当に面白かったです。以下は内容に触れるので隠します。

いろいろと面白いエピソードがありましたが、覚えの悪い郁に柴崎が提案した罰ゲームが面白い。効果覿面ですね。秋田のお祭り関連の話も面白かったです。王子様エピソードも大概面白い。主人公が一本気で陰湿な部分がないだけに爽快な気分になりました。
 以下は気に入った格好のいい台詞です。
 「正論は正しい。だが正論を武器にするやつは正しくない。お前が使っているのはどっちだ?」(堂上)
 「堂上が君に何かを言ったとしたら (中略) 君にそれを言う必要があったからだ。そういうところで公正を欠く奴じゃないと俺は信じている」(小牧)
 「結局のところ何かのせいにして落ち着きたいのよね。 (中略) 理由付けして原因を取り除いたら子供を管理する側は安心できるって仕組みね」(柴崎)
 「原則を曲げることは簡単です。しかし、原則を守ることで量られる真髄があるはずです」(館長)
 「選ぶべきものを選ぶときに選び方を躊躇する奴は口先だけだ」(手塚)。
 柴崎の相手とか、笠原の家族の話とか、王子様の話とか、警察官の思惑とか、途中で想像した出来事が起こらなかったので、もしかしたら続編があるかもしれません。できればあってほしいです。楽しみ、にしていいものでしょうか。