小河正岳 お留守バンシー

お留守バンシー (電撃文庫)

お留守バンシー (電撃文庫)

 主である吸血鬼のブラド卿の屋敷を管理している泣き女のアリア。家事が大好きなアリアは主人の世話を楽しくこなしている。屋敷にはアリアのほかにも、庭仕事を担当するリビングデッドほかたくさんの妖怪がすんでいる。幸せな日々をすごしていたアリアたちだったが、かつてブラド卿と戦ったクルセイダのルイラムが屋敷を訪れるという情報を得たブラド卿は、一時的に身を隠すため僻地へ旅立った。留守番を任されたアリアは無事に仕事を勤め上げることができるのか……。
 電撃小説大賞を受賞した作品です。ほのぼのとした怪物たちを描いたのは藤子不二雄の「怪物くん」が最初でしょうか。雰囲気しか覚えていませんが、必ずしも悪ではない、と言うスタンスだったと思います。少し記憶しているのは、体が金でできている妖怪がいて、人間に体を削られてしまい、人間は怖いな、と締めくくる話。怖れられているけれど、実はやさしいと言う設定はそれほど新しい物ではありません。でも、それぞれのキャラクタが愛らしく、イラストもそれに合った画風なのですんなりと受け入れられます。
 これまでバンシーが主人公の物語は読んだことがないかもしれません。本来のイメージは子を亡くした女性なので、もう少し年長なのですが、電撃文庫向けとしては少女にしておいたほうがいいのかもしれません。
 あまりいる必要がないように思える”慎み深いサキュバス”は”女性に弱い首なし騎士”を動かすために必要ですし、力仕事が苦手であろうアリアを支える”庭仕事が得意なリビングデッド”も必要なキャラクタだと思います。要らないのはペンギンぐらいかな。ブラド卿も実は強力な力の持ち主であろう、と想像されます。最後の締め方は、知らない伝承なので、作者のオリジナルなのか、もともとある設定なのかはわかりませんが、予定調和に過ぎるような印象も若干受けました。しかし、投稿作品としてはこれでも十分だと思えます。安定した内容で、別名義で作品を出していてもおかしくないほどの完成度ではあったと思います。安定感があるのは結構なことなのですが、新人さんの場合、安定さよりも光る部分があったほうが魅力的に感じます。ただの好みの問題ですが。
 ほのぼのとしたキャラクタたちは好ましく、続編もおそらく出ると思います。ただ、この3冊のうちどれが一番好みだったかと言えば、「狼と香辛料」になります。大賞を取ったということはそれだけ編集部から評価されたと言うことでしょうし、それについて否定するものではありません。今後の期待度と好みで言えば、の話です。今、ライトノベル界ではもっとも投稿数が多いと言われる電撃文庫だけあって、かなりの水準を満たしていたと思います。もうひとつ、巫女さんの作品がありましたが巫女さんはもういいかな、と感じたので今回は購入しませんでした。それが吉と出るか凶と出るかはわかりません。