来楽 零 哀しみキメラ

 古びた建物の塾に通う矢代純は遅刻寸前に駆け込んだエレベータに閉じ込められる。同情していたのは彼を含む4人。なぜか携帯電話も繋がらない状況で、彼らの前に奇妙な生き物が姿を現す。その生き物は特に害をなすことなく姿を消したが、その日から彼らの体調に変化がおきた。その原因は何なのか、そして、この不可思議な現象は収まるのか……。
 電撃文庫金賞受賞作です。イラストの影響もあってか、アニメの原作のような雰囲気でした。読後感から言えば昨日の狐と香辛料のほうが好みです。もっと正直に言えば、なぜこちらのほうが上と評価されたのかが良くわかりません。
 主要な登場人物4人の背景を描こうとして中途半端に終わってしまったような印象です。続編を意識して部分的にしか描かなかった、と言う可能性も考えられますが、主役を4人も設定することに無理があったような気がします。もっと分量のある本だとか、あらかじめ続編を意識した作品なら、もう少し充実したかもしれません。特に薄く感じたのは七倉と早瀬。あまり葛藤しているように思えない二人でした。
 先にも書きましたが、OVAのノベライズのような内容です。その善し悪しは別として、ノベライズなら映像では描かれなかった登場尾人物の心象風景などが描かれるはずですし、そうでなくては価値がありません。でも、これは本当に見たままのアニメを文章に起こしたような印象です。残念ながら好みの作品ではありませんでした。