桜庭一樹 私の男

私の男

私の男

 ああ、この人は地方の寒々しさをかかせたらどうしてこんなに上手いのだろう、と思える筆致で、北の国の様子が描かれています。地方にある、人がいなくなってしまうわびしさとか、田舎特有の人付き合いの濃さや閉塞感がすごく良く描かれていて、その中で熱量をもてあましている若者などもよく描かれています。北海道は取材で行ったというだけなのか、何か思い入れがあるのかは分かりませんが、万人がイメージしやすい過疎地を選んだのかもしれません。
 それだけではなくて、禁じられた関係の二人がどのようにしてその関係を築いてきたのかを、時系列をさかのぼることで描いており、冒頭では大人の主人公を描くことで読者にその過去を想像させて、その想像を埋めていくかのように過去にさかのぼっていきます。語り部がいろいろと変わっていくのですが、その時代を見るにはその登場人物しかない、と思ってしまうような人選で、物語をいろんな視点から見つめることが出来ます。正直、これは傑作と言ってもいいと思える出来でした。物語の内容にはほとんど触れていませんが、ぜひ読んでほしいと思える作品です。