支倉凍砂 狼と香辛料

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

 旅商人であるロレンスは契約の帰り道、荷馬車に誰かが乗り込んでいることに気が付く。狼の耳を尾をもつ少女は豊穣の神であるホロだと名乗った。これまでこの土地で豊穣をつかさどっていたものの、神に対する意識は薄れ、逆に手玉に取っていると恨まれるようになったため、生まれ故郷に帰りたいと言うホロを同行させることにしたロレンス。彼は耳と尾がなければ絶世の美少女とも言えるホロを生まれ故郷に連れ帰ることが出来るのか……。
 作者は、自らが描く、この世界のことをしっかりと想像できていると言う印象を受けました。途中、産物や経済について触れている部分もありますが、それらは作者が一生懸命勉強して自分の中できちんと消化し、作中に反映させようとしている姿が浮かびます。 
 途中、ロレンスは、あくまでも推測に過ぎない事象を話を進めることであたかも現実のものであるかのように語っています。これは商人としての術なのか、著者の策略なのかはわかりません。物語の大半が大きな契約にまつわる話ですが、冗長な印象は無く、ところどころで挟まれるロレンスとホロの会話がとても面白いです。老獪なのか純情なのか、長く生きれば老獪になるわけでもないのでしょうが、その揺らぎがロレンスを動揺させ、読者としてもほのぼのと読むことが出来ました。手をつなぐ場面が好きです。
 さて、この物語を含めて、多くの物語では長生きすることが必ずしも良いことではない、と言った描写があります。周りの人間(に限らずですが)がいなくなってしまい、寂しいのだ、と。しかしそれはどうなのだろう、と考えるときがあります。短い人生だって孤独だと感じるときはあるし、仲間がいることの喜びもあるし、独りで居たいときもあります。それが広大な間隔で起きるからと言って必ずしも長生種が孤独になるとは思えません。おそらくこういった描写は、長いとは思えない人生の中でもこれだけ孤独を感じるときがあるのだから、長い長い期間生きているものならばもっと数多く、深い孤独感を味わうのだろうと考える人が多いからかもしれません。まあ、生き物は誰しも孤独であり、それを知ってからの時間は短いほうが幸せなのかもしれません。
 本作を含めて電撃文庫の受賞作を何作か購入しました。新人(賞)作家の作品を読むのはとても楽しみです。あたりもあればはずれもあるのですが、新しい作者との出会いはとても楽しい。外れることもまた楽しみの中に含まれているのではないかと思います。当たりを際立たせるため、といってしまえばその作者に失礼かもしれませんが。ここで当たりとか外れとか言っていますが、感想は人それぞれだと思います。少なくとも編集部では誰かが気に入った(お金になると判断した)作品であるはずです。
 支倉凍砂さんは好きなタイプの作家だと思います。もう少し続編も出そうな終わり方でしたし、ホロのキャラクタも好ましい。今後に期待します。