乃木坂太郎, 永井明 医龍 10巻

医龍?Team Medical Dragon (10) ビッグコミックス―BIG COMIC SUPERIOR

医龍?Team Medical Dragon (10) ビッグコミックス―BIG COMIC SUPERIOR

 ついに3件めのバチスタ手術に踏み切ったバチスタチーム。今回の患者は内臓完全逆位の乳幼児という、通常の手術さえ困難な患者だった。教授選の条件を改定するための会議の最中開始された手術だったが、更なる困難が待ち受けていた。冷静に対処する朝田。さらに対処している間に、浅田に対立する医師、木原の母親が事故で運び込まれるが、朝田以外には対処不能なほどの重症だった。朝田はどちらの患者を選ぶのか、どちらの患者が助かるのか、そして、教授選の条件はどうなってしまうのか。
 これまでの話を簡単に書きます。医療界の改革を考えている女医の加藤が発掘してきた凄腕の医師である朝田がその実力を持って教授たちの反論を抑え、外科のみならず内科や麻酔科、看護士など、専門分野のスペシャリストが集まって、世界でも困難な手術といわれるバチスタ手術のチームを形成した。これまでに行った2例はいずれも成功を収め、加藤の前途は洋々たるものに思えたが、加藤を教授にしたくない現教授が裏工作を行って外部から教授候補を呼んできた。それに対抗するため、教授選のシステム自体を改革しよう、つまり、現教授に真っ向から対立することを決めた、というのがこれまでの大まかな流れです。
 医師が監修していることもあって、医局のどろどろした部分や、現在の医療システムの問題点が、かなりリアリティを持って示されています。細部まで描かれる美しい絵柄の力ももちろんはずすわけには行きません。場面の見せ方もとても上手い。これほどまでの超絶技巧を持った医師がいるのかどうかはわかりません。まあ、いたとしても一人いるかいないかでしょう。TVで特集されるような医師は実際には少ないかもしれない。だから、基本的な方向性としては全体の能力を底上げすること、できることとできないことの判断力をあげることだと思います。これまでの話を読むと、外科医に必要なのは知識や手先の器用さだけではなく、体全体や細部でも、イメージする力が重要なのだな、と知りました。
 医龍で示された医療界の問題点は、デフォルメされているので実際よりも酷く表されてると感じます。問題提起としては多少過剰なまでに表現したほうがいいのかも知れません。これを読んだ実際の医師がどう感じたのか聞いてみたいところです。10巻の内容に触れるので少しですが隠します。
 10巻の感想をあと少しだけ。これまで対立してきた医師の一人である木原の母親が運び込まれ、浅田に助けを請いますが、木原はこの患者が自分の母親であるとわかるまでは非常に冷淡な態度です。仕事では感情をあまり込めないほうがいいのかもしれません。が、木原はこれまでも医師らしくない態度をとってきているし、自分の肉親をどうしても助けたい気持ちはわからないでもありませんが、医師としては完全に失格です。それに対して、誰も分け隔てなく治療に専念する朝田は、能力はともかく態度はまっとうなため、善悪の対比がはっきりと現れています。こんな気分になるのも作品が優れているからでしょう。今後も楽しみな作品です。