野梨原花南 レギ伯爵の末娘〜良かったり悪かったりする魔女〜

レギ伯爵の末娘―よかったり悪かったりする魔女 (コバルト文庫)公爵夫人のご商売 (コバルト文庫―よかったり悪かったりする魔女)スノウ王女の秘密の鳥籠 (コバルト文庫)侯爵様の愛の園―よかったり悪かったりする魔女 (コバルト文庫)
 魔女であるチャコーレア・スイフトの弟子であるポムグラニットは修行を始めて半年になるが、未だに家が恋しい年頃。実家に帰って祭りに参加したいと言うポムグラニットにチャコーレア・スイフトはある課題を課す。それは、何かひとつ魔女らしいことをすると言う内容だった。魔女らしいことをするためには対象が必要だ、と町で情報収集したところ、13人もの姉に迫害されているレギ伯爵の末娘が目的に合いそうだったため、伯爵邸を訪問するポムグラニット。そこでであったのは男でもなく女でもないと言う呪いをかけられたレギ伯爵の末娘だった。
 ちょーシリーズで自由にやらせてもらったから今はそれほどのこだわりはないとあとがきにありました。まあ、それはきっと真実と言うか、本音なのでしょう。この作者の作品は前述のシリーズと、あと短編を少ししか読んでいませんが、基本的にあまり悪人が出てこない作家さんです。ちょっと小ずるい人は出てきますが、吐き気がするほど嫌な人とか、読むのをやめたくなるほどひどい人はほとんど出てきません。登場人物は大抵素直で善良であるか、少しひねくれているけど善良か、昔は善良だったけれど今は事情があって悪者ですよ、と言う人がほとんどです。文庫がコバルト文庫であることを考えるとそれで良いかな、と言う気はします。純粋に物語を楽しむためのレーベルだと思っているからです。
 ポムグラニットが初めて登場してきたときは、甘えん坊な女の子が成長していく物語かな、と思っていたのですが、結構しっかりとしているところもあったりして、どういった話の流れになるのかが楽しみでした。年頃の少女なので、おしゃれや恋にも興味があるでしょうが、ポムグラニットは自分のすべきことを投げ出したり自暴自棄になったりはしません。拗ねキャラかと思っていたポムグラニットがしっかりして見えるのは周りの大人が結構情けないからかもしれません。とはいってもポムグラニットの交友関係は執事などを除いたらまだまだ若く、エネルギィに満ち溢れています。たとえ言いにくいことでも思ったことをはっきりと言うポムグラニットは正直と言えば正直で、思慮が足りないと言えば足りません。でも、そこに悪意はなく、自分を哀れむこともなく、他人を思いやる気持ちから出てくる言葉が多いので周りも苦笑交じりに受け入れるのでしょう。素直な性格はとてもかわいらしく、微笑ましい。最新刊ではポムグラニットのしなやかな強さ、と言うか柔軟さが現れていて、それが心地よく感じられます。
 マダーとアザーで毒蛇がアダー。名前がどうしても入り乱れてしまうのが残念と言えば残念。翻訳小説を読むときでもそうなのですが、カタカナの名前があまりインプットされません。苦手意識が記憶することを阻害するのか、そもそもの機能に問題があるのかはわかりませんが。一度覚えてしまうと結構長い間忘れません。記憶の引き出しの奥深くにでもしまっているのでしょう。話がそれました。主要な登場人物であるマダーは某漫画で見たような呪いに掛かってしまい、男女が入れ替わる体質になりました。でもあまり気にしません。鷹揚なのです。幼いころから男性と女性を繰り返し体験していたマダーはある程度のハプニングでは動揺しない器を手に入れたようです。男女どちらでもかまわないというアザーに動揺したぐらいでしょうか。適当と言うか、おおらかというか、キャパシティの大きいキャラクタは好きですね。回りもそのキャラクタに当てられてか、相当おおらかなキャラクタです。
 特に好ましいのは召使の人たち。召使と言えば、半分奴隷のようなイメージですが、ここに登場する彼らは明るく、楽しげに主人に仕えています。護衛のカイなんて叶わぬ(とも限りませんが)恋に悩んだりしています。主従関係ははっきりさせないと命令が行き届かなかったりしそうな気がしますが、彼らはそれぞれの仕事に誇りを持っているのか、主人に親しみを抱きつつも的確に自分たちの任務を全うします。エマに登場するジョーンズが分け隔てなくメイドに接することが珍しいように、きっとこの世界でも分け隔てなく接する主人は珍しいのでしょう。そういった記述もあったかと思います。だからこそ彼らは貴重な主人のために懸命に働くのかもしれません。召使であることに悲壮さはなく、仕事に誇りを持っているであろう彼らが好ましく映ります。
 少し長いですか。まあ、4冊分だと思えばそれほど多いわけではありません。今回少しだけ1巻を読み返しましたが、ポムグラニットってまだ修行半年だったのですね。最新刊ではとても魔女らしい姿が散見されたので、その設定を忘れていました。半年でこれまで出てきたような知識を自然に扱えるほどの知識を得ていたのだからポムグラニットはもしかしたら魔女としての素質があるのかもしれません。もうひとつ、はじめの設定を忘れていたことは、マダーの呪いを解くことがポムグラニットの良かったり悪かったりする魔女としての最初の仕事だったのですが、普通に仲良く過ごしているのでそのことを忘れていました。次に読むころにはまた細かい設定を忘れているかもしれないので、一応メモとして残しておきましょう。
 明るいキャラクタたちが好ましいこのシリーズですが、それなりに速いペースで発刊されていますし、今後も楽しみに追いたいと思います。