金原瑞人 翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった

翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった (ポプラ文庫)

翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった (ポプラ文庫)

 面白かった。原書で読むなんてとんでもないと思うし、翻訳家がいてくれるからこそ海外の作品を楽しめるのですが、この人はすごい。これまで翻訳した作品も300冊を超えるそうで、図書館に行っても金原瑞人訳の本がたくさんあります。この人のすごいところは、あまり執着がないというか思考が柔軟なところ。翻訳作業ってとても大変だと思うし、どれだけたくさん翻訳したとしてもあるいみ「自分の作品」なのでそのまま残って欲しいと思いそうですが、翻訳作品には寿命がある、と言ったり、共訳もいとわない。そこがすごいと思いました。
 あとがきは上橋菜穂子さんが書いていますが、この人もやわらかい文章のようで硬質な内容でした。金原さんのことをすごいとか怪物とか書いている割に、これで腰が引けるようなら翻訳家になんかなるなと言っています。それだけ自分の作品に愛着があるのだろうし、言語学者としていろんな言語に触れているからこその言葉だと思います。
 翻訳家といえば柴田元幸さんが浮かびますが、彼らは飄々としながらとんでもない仕事量をこなします。逆に言えばそれぐらい仕事をこなさないと生活が成り立たない部分があるみたいですが、それにしてもすごい。今、自分がしている仕事もそれなりにたくさんこなしているつもりですが(ジャンルはもちろんぜんぜんちがう)、まだまだだなあと思います。飄々と困難な仕事をこなす人は格好いいけど、その裏では凡人が想像する以上の苦労があるのでしょう。見習うことは自分の能力をかんがみてもできないかと思いますが、仕事の多さに押しつぶされたりめげたりしないでがんばろうと思いました。とてもよい文庫。