土橋 真二郎 扉の外

扉の外 (電撃文庫)

扉の外 (電撃文庫)

電撃小説大賞金賞受賞作。キャラクタは普通。和泉(と言う女生徒)は面白いと思ったけど、他はいまひとつ。内容に触れるので隠します。

主人公が結構真剣に孤独感を抱えているのか、ただの高二病なのか判断が難しい。家族に不満を持っていそうなのはわかるのですが、それが描写されていないと言うか。たとえば同級生の視点から見た(主人公の)家族像があるとか、少しでも多面的に描写されていないとただわがままな高校生との区別ができません。する必要も無いのかもしれませんが、ちょっと消化不良。さらに主人公がなぜもてるのかが良くわからない。それはいいっこなしでしょう、と言われそうですが、学年にこの程度ひねた性格の少年ぐらいたくさんいると思うのです。他と違う部分があるとしたら「腕輪」を自分で外したぐらいでしょうか。極限状況ではいろんなことが起こりうると思うのですが、それにしても主人公に魅力が無い。淡々としているところがいいのでしょうか。
このほかにも青い天使と呼ばれる少女は二面性が激しいと言う設定なのですが、それもいまひとつ。学年の半分に好かれる少女と言うのは実在するのでしょうか。高校野球のエースで4番でもそこまでの人気は無いのではないでしょうか。
細かいところに文句をつけても仕方がありませんが、ゲームのルールもなるべく単純化しようとしている意図は十分感じ取れますが、終盤に向けてばたばたと展開していったりするところに詰めの甘さを感じます。
一番良くなかったのは、主要な登場人物以外をほとんどその他として使っていたこと。それ自体は良くあることかもしれませんが、せめてクラス規模でとめておくべきでした。もしくはもっと世界レベルまで風呂敷を広げてしまうとか。バトルロワイアルでも、主要人物以外に割かれた描写は少なめでしたが、それでもある程度は描写があったし、中学生としてありえないとしても個性が感じられました。この作品では学年全体を密室に閉じ込めてしまったことで(枚数に制限があるにしても)細部のおざなりさが感じられます。主人公格ばかりというのも小説としてどうかとは思いますが、規模が中途半端すぎる。
珍しく苦言をたくさん書いているのですが、今回それを書いたのは、それでもなお面白い小説を書いてくれそうな可能性を感じたからです。閉じ込められた少年少女の対立を国や宗教、人種などの大きな問題に外挿する手法とかは面白かった。子供(独力)では解決できない点(たとえば食料品や娯楽施設の影響で凶暴性が抑制されているのではないかと言うくだり)はなぞのままでおいておくのもありだと思いますし、この後何作かは読んでみたい作家だと思います。