[読了]桜庭一樹 「荒野の恋」

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)





12歳の少女、山之内荒野は通学中の電車でスカートを挟まれ、困惑しているところ一人の少年にかばわれる。その少年は同級で、同じ中学に所属していた。彼がクラスメートであったことを喜ぶ荒野は彼の視線が冷たいことに気がつく。初めての感情に戸惑う荒野の恋はどうなるのか。
 小説家である父は荒野の前で遠慮なくさまざまな恋愛をしているが、荒野はまだ恋がどのようなものか良くわからない。精神より先に成長をはじめる肉体。それに戸惑う荒野。「小説はハングリィ・アートだからな」と言う神無月悠也。思考がまとまらず、象徴となりうる言葉に影響を受けているのでしょうか。子供のころのセンシティブな気持ちが描かれています。子供は、親の庇護を受けているため、現状を打破することは難しいと考える。(不満な)現状を変えることは、大人になってからも難しいのですが、子供の視野ではどうしても周りの責任にしたくなってしまうのです。それは、今となっては思い出すだけの瑞々しい感情。大人になるということは、一部鈍感になっていくということでもあるのですが、当時感じていたことは忘れたくないですね。著者が若い女性ということもあるのですが、そのあたりが上手く描かれています。3部作ということですが、この先どうなっていくのでしょうか。とても楽しみです。ミギーのイラストも作品の雰囲気にあっていると思います。大人のイラストも少女のようになってしまうところがあるように感じますが、この後どのようなイラストを見せてもらえるのか、それも楽しみです。