桜庭一樹 荒野

荒野

荒野

 これまで第一部と第二部がファミ通文庫で刊行されて、理由はわかりませんが三部は出なかった作品。第二部まではとても面白く、続きを期待していただけに最後だけが書き下ろしとして、ハードカバーで出版されたのは残念。
 と、思いつつも結局読んでいるのですが、ハードカバーでもいろいろと加筆しているとのことだったので最初から読み直しました。この物語に出てくる「荒野」という少女は少し子供じみたところがあるものの、少しずつ少女から女性に代わっていくさまが描かれていて面白い。こんなにはっきりと周りの雰囲気の変化を自覚していた子供だったかというとそんなことはなくて、ただ、今まであるものはこれからもあると漠然と信じながら生きていたと思います。自分の立っていたところがとても不安定なもので、それまで保てていたのが軌跡のような状態だと知ったのは高校生のとき。それまで、駄目になる雰囲気は感じていたものの、自分の勘違いだろうと思い込もうとしていました。価値観が変わったことを自覚して、それから今までは大して変わっていません。
 荒野が考えるとき、少しずつ区切って考えるところが好きです。「それは、たぶん、ちょっとした、違いなのだ」みたいな(本文にはこんな文章はありません)。荒野ののんびりしたペースと、荒野の周りにいる、父親と関係を持つ女性のかかわり方も面白い。本当ならもっとどろどろしたものになりそうですが、荒野ののんびりしたところからそこまでどろどろとはしないあたりも面白い。それは、きっと、荒野が無意識のうちに「おんな」になることを抑えていたことが理由で、自分の身を守ろうとしていたのかもしれません。
 刊行スタイルは一般文芸ですが、内容はやっぱり若干若い子向けかな、と感じます。赤朽葉家の〜と比べるとよく言えば読みやすい、悪く言えば重厚感がない作品でした。だからと言ってこちらがつまらないわけではなく、文庫で読んだときの感想も(一巻二巻)名作になりそうだ、と書いているし、読み終わった今もそう思っています。