[読了]羽生喜治 決断力

決断力 (角川oneテーマ21)

決断力 (角川oneテーマ21)





 棋士の戦いはその一手一手が決断の連続。天才棋士と呼ばれる羽生喜治さんの思考を追う新書です。各章のタイトルがその章の内容を的確に表していています。もちろん、タイトルは的確であっても、あくまでも表層を表したものであり、内容は更に興味深い内容でした。
 羽生さんが常に客観的な視点を持っていることに驚きます。彼が七冠を取ったとき、圧倒的な強さであったように思えますが、過程を冷静に解析すると危なっかしい部分もあったようです。結果に驕ることなく、客観的に見ることが出来ること。それは一見簡単なように思え、誰もが出来ているように思えますが、非常に難しいことだと思います。
 集中力を高めることは、徐々に深いところに潜っていくような感覚だそうです。誰しも経験があるように、楽しいことは早く時間が過ぎていくように感じ、苦痛なことは永遠にも思えてしまうときがあります。しかし、それは何かを体験しているときの集中力であり、何かを決断するためにそれほど集中出来たことは今まで有りません。
 どのページを見ても、本当に面白く、きっと何度も読み返すことになる一冊になると思います。最も衝撃的だったのは、

勝つことだけを優先していると、自分の将棋が目の前の一勝を追う将棋になってしまう。今はいいが、将来を考えると「よくないな」と気づいた。

と言う一文です。これが、奨励会に入って一年目の感想であることが驚きなのです。毎回の勝負が将来を分ける世界で、目の前の一勝に拘ることは決して悪いことではないと考える人も多いのではないでしょうか。しかし、長期的な視点で考えた場合、若い時代は基礎固めをしなければいけない時期であり、目先の勝負以外にも研究する必要が有るということでした。何度も述べますが、この考えに十代で至ることに羽生さんの卓越した才能を感じました。
 ここで書かれていることは必ずしも将棋に限ったことではありません。だからこそ、新書と言う形で出版されたのでしょう。とにかく、素晴らしい内容の一冊でした。