辻村深月 ぼくのメジャースプーン

ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)

ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)

主人公の少年のクラスには容姿に優れているわけではないが、クラスのリーダシップをとる少女がいた。 は彼女に好意を持っており、ある種の敬意をいだいていた。ある日、彼女のピアノの発表会で、現場から逃げ出そうとした彼女に はある行動をとる。偶然それを知った母親は、息子が最近はあまり現れなかった能力の持ち主であることを知る。母親に言い寄られその能力を抑えていた彼だが、学校で起きた事件をきっかけに能力について深く考え始めた……。
 主人公の能力に関しては比較的早めにその内容がわかるのであまり隠す必要も無いかとは思いましたが、一応隠しました。辻村美月の作品では、ある種の感覚というか、感情を失っている人が登場することが多いような気がします。その、何かが足りない彼らは誰かを攻撃することや依存することで自分の位置を確認しようとしているかのように思えます。
 今回の「メジャースプーン」は登場する子供たちが聡すぎるきらいはあるものの、いろんなことを考えるきっかけにはいいのではないでしょうか。たとえば、以前日記に書きましたが、ある教室では皆でブタを飼育し、最終的にどう処分するのかをクラスで話し合って決めたといいます。先日書いたのはTVを見た感想で、そのときの映像にはいろいろな意見を言う子供たちがいました。カメラが入っていることを考えると必ずしも彼らの本心かどうかはわかりませんが、いくつかの意見があり、どれが正解という問題ではありませんでした。本作でもこの話題がありました。少しだけ内容に触れますが、この主人公の少年は一般的な正解の無いものに答えを出さなければいけなくて、それを考えるきっかけとしてこの話題が提供されています。
 主人公の少年に与えられた課題(決定しなければいけない内容)は、その年齢を考え無くても難題です。その答えを出すために懊悩し、さらに考えるきっかけをある人が与える。その問答は、読めばありきたりのことと思えるかもしれませんが、何も知らない状態で自分がそこまで思考することが出来るのかというと、出来ると断言は出来ません。おそらく今ならば可能であり、主人公の少年と同じ年頃であったならば出来ないでしょう。
少年に思い入れが出来るかもしれないし、ほかの登場人物に思い入れが出来るかもしれない。それは、読者がもともとどういった位置にいるかで決まることかもしれません。
少年が最後に出した答えをどう考えるか。もし、ここを読んだ方で、作品を読んだ方がいらっしゃったらその感想を聞きたいところです。