[読了] 池上永一 夏化粧

夏化粧

夏化粧





 島の産婆であるオバアはどんな子供でも安産に導ける名人だった。島の人間のほとんどはオバアに取り上げられ、オバアは慕われていた。そのオバアが死を迎えるとき、これまで取り上げた人間のほとんどに呪いをかけていたことを告白する。オバアは強力な呪い師でもあったのだ・・・。
 沖縄であろう島を舞台にしたファンタジィ。主人公の津奈美は私生児を孕み島に戻ってきたものの、子供はオバアに呪いをかけられ、姿が見えない存在になる。その呪いを解くためには子供が生まれたときにかけた7つの願いを他人から奪い去らなければならない。津奈美は果たして呪いを解く事ができるのか・・・。
 「風車祭」を読もうと思ったのですが、売っていなかったため代わりに(というのもなんですが)この「夏化粧」を読了。一見頭の悪い若者に見える津奈美の、母になって強くなった点が描かれています。それは、恐ろしくなるほどの意思。そして行動力。一人の子供を救うために7人の願いを奪うことは是なのでしょうか?客観的にはそう思えなくても、我が子のためなら他の何をも犠牲にしてもかまわないという人はいると思います。物語的な盛り上がりはかなり良く、最後まで一気に読むことができました。途中までとぼけた感じで描かれていた神ですが、結末を迎えたとき、もしかしてすべてを見通していたのかと背筋が凍りました。人がいなければ存在できない神。その神が人を贄として求めるのか。それは何のため?無数のトパーズが神の無情を映し出しています。心残りなのは願いを奪われた人たちがどうなったのかほとんどフォローがなかったことです。しかし、南国の気質なのでしょうか、あまり気にしていない風なのが救いでした。所々で見られた、とぼけた描写は好きです。「風車祭」もぜひ読みたいですね。