[読了] 大崎善生 将棋の子

将棋の子 (講談社文庫)

将棋の子 (講談社文庫)




 名人予備軍である若者たちが切磋琢磨する奨励会。年齢制限がある奨励会からは毎年数多くの青年が脱落している。プロを目指してこれまで将棋一本に取り組んできた彼ら(彼女ら)は脱落後、右往左往しながらも新しい道を探す。これは、あまり光が当たらなかった脱落組へ焦点を当てた、奨励会の厳しさと、著者の将棋への愛情を描いた物語。
 毎年どれくらいの人間が奨励会に入会し、何人が脱落するかなどは詳しく知りません。ぼんやりとですが、奨励会に入ることが出来るほどの腕前を持っていれば、将棋に関連した仕事についているのかな、と思っていた程度でした。彼らはいろんなものに好奇心を持つ年代で、少しでも気を抜くと他のものに誘惑されてしまいます。それを乗り越え、なおかつ才能に努力を積み重ねた者だけが到達することが出来る棋士をやはり尊敬せずにいられません。
 物語は、大崎さんが小学生のころ偶然であった成田さんを中心に描かれています。奨励会を脱会してからの成田さんの苦難。それは、自業自得である部分を多分に含みます。借金を重ねるあたり、社会を知らずに年を重ねたことが影響しているでしょう。友人であった大崎さんともなかなか連絡がつかなかった成田さんは住所を偽り、それが再会のきっかけになります。そこで大崎さんは成田さんが脱会後にどのような生活をしていたかを知りますが、成田さんが「将棋をしたことを後悔したことは無い」と断言したところで、たとえ脱落したとしても、才能をぶつけ合い互いを磨いてきたことは無駄では無いのだな、と感じました。
 インタネットが普及し、比較的情報を入手しやすくなった現在、プロとアマの差は縮んできているようです。この先、プロの制度はどうなっていくのでしょうか。たとえ形は変わったとしても、名人の高みに変わることはなく、その存在は憧憬の対象であるのだと思います。