小川洋子 猫を抱いて象と眠る

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ

 ものすごく静けさを感じる小説だ。奇抜な設定、とおもってしまう主人公の設定だけど、物語に必要な設定だった。もともと良く話す方ではあるものの、最近ほとんど仕事以外で話すことがなくなった。話さなくても平気なんだ、というわけでもなくて、ただ話さなくなっただけ。まあそれはおいておくとして、主人公は、環境的には幸せとはいえないかもしれない。それでも、読み終わったときに感じたのは、なんと充実した一生なのだろうか、ということ。新しい機械などをとても興味深くみるし、欲しいとおもうこともよくあるのだけど、かならずしもそれだけがすべてではない。何かが足りないことで満たされる何かがあるのだなとおもう。
 とくに何もない人生だけど、精神的にでも満たされる何かがあっただろうか、とふと考える。ものを考えない人生だったからかもしれないけれど、ただ、だらだらとすごしてきた気がする。それはそれで、たいしたことがない人間でも生きていられる社会っていいなとおもう部分もあるのだけど(昔だったらすぐに死んでいたとおもう。基本、役立たずだし)、何かしら満たされるものがあればよかったかな。
 チェスは将棋と比べると可能な手が少ないそうだけど、それでも名人と呼ばれる人たちの思考が優れていることに疑いようはない。あの小さな盤面に宇宙とか世界を感じられるひとってほんとうにすごい。これから先も、チェスや将棋は生き残るだろうけど、いつまで進歩するのだろうか。
 冒頭にも書いたとおり、とても静けさを感じる小説だった。そして、それがとても心地よい。思い返すと、小川洋子さんの本はどれも静けさを感じるような気がする。どこか隠遁生活をしているような主人公の話ばかりを読んでいるからかもだけど。とても、おもしろく読めた。