[読了]有川浩 塩の街

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)


 ある日、東京湾に謎の巨大結晶が落下した。それを契機に世の中は人体が塩化する奇病に悩まされることになる。東京だけでなく、世界中で起きる悲劇。小笠原真奈はこの事件で両親を失い、行き場をなくしたところを元自衛官の秋葉に拾われる。塩化の原因は何なのか。人類は滅亡から免れることができるのか・・・。
 有川浩のデビュー作。これまで「空の中」「海の底」と読了し、面白い話を書く人だと思っていましたが、まさに原点と言える作品です。優秀な自衛隊員と、本来なら交点を持たない高校生が主人公です。設定であるのは人がなぜか塩化すること。それ以外は現実と変わらない世界で、まっすぐな考えの人たちが、それぞれの行動理念に沿って動きます。
 導入部では塩害にあった他人との交流を持ってきており、悲しいけれどどうしようもない別れを真奈は経験します。極限状態に遭遇したとき、人はその本性を現すかもしれません。真奈が”傍観者にしかなれない立場で当事者のように泣いたことを恥じるメンタリティ”を持っている一方で、他者のことを何とも思わず陥れようとする人も出てきます。確かにその姿は醜く、不快で受け入れられないかもしれませんが、当事者となった場合どのような行動をとるのか。今、考えているように行動できるでしょうか。
 物語が佳境に入ると、悪役が登場します。偽悪的な彼は情け容赦ない行動を取りますが、周囲の人間は止めようとしません。つまり彼を認めたことになり、それは、同罪であることを忘れてはいけない。他人を犠牲にすることを厭わない彼は、全てが収束したとき恨まれたり、非難されるかもしれません。彼の行動全てを受け入れるわけではありませんが、他にどうしようもない事態が起きてしまったとき、悪役を引き受ける人が必要なのかもしれない、と考えてしまいました。極限状態で何ができるか、どうするべきかを考えながら読みました。デビュー作とは思えない出来です。今後の作品では、得意分野(おそらく自衛隊関連)から少し離れた作品も読んでみたいですね。
 あと、大したことではありませんが、イラストは今ひとつでした。良い悪いではなく、好みではないと言うだけですが。というわけで、強引に脳内でのイメージを高橋しんに変換して読みました(最終兵器彼女の影響を受けていますね)。それでも、最後のイラストは良かったと思います。