[読了] 女流棋士 高橋和

女流棋士 (講談社文庫)

女流棋士 (講談社文庫)




 タイトルのとおり、女流棋士である高橋和さんのエッセイです。和さんは幼いころ交通事故で左足に重傷を負います。幼い身にとってそれはどれほど大きな出来事であったことでしょうか。事故の後、家族はそれぞれ心に傷を負います。それでもなお、両親の渾身の愛に包まれた彼女は女流棋士として身を立てました。この作品は彼女の半生を綴ったエッセイです。
 将棋や碁の棋士にあこがれます。憧れるというよりも尊敬の念を抱くと言ったほうがいいかもしれません。ルールも良くわからない身(それで判るのかとはいわないで欲しい)にとってはまさに天上の戦い。思考の深さが行き着く先ではないかとさえ思えます。棋士の半生を本人以外が描いた物語はこのほかに多数あります(あまり読んだことはありませんが)。この作品では等身大の和さんが描かれており、天上人である棋士の素顔を垣間見ることができ(たような気になれ)ました。林葉直子さんも作家として活躍されていました(残念ながら暗い側面ばかりが強調されていた感が強いです)が、棋士の方には文才を備えた方も多いのかもしれませんね。とても読みやすい文章でした。本当ならつらい側面もあったと思います。もちろん、つらかったことも描いてはあるのですが、和さんの強さと言うか、明るさに救われる部分が多分にありました。形は違えど、多くの人が苦難を乗り越えて成長するものだとは思います。それを乗り越えた上での和さんの笑顔は、本当に素敵ですね。
 印象的だったのは、和さんの兄のやさしさです。両親の愛情ももちろん大きく、母親の日記からもそれは強く感じられます。両親の注意はどうしても和さんに対して向けられることが多くなるのですが、嫉妬も少なからずあったと想像されるのに、妹に向けられるそのやさしさに感動しました。現在、和さんは素敵な作品を書く大崎さんと結婚し(19歳差!)、子供にも恵まれ、幸せそうで何よりです。今後のご活躍を期待しております。