橋本紡 流れ星が消えないうちに

流れ星が消えないうちに
 最愛の恋人を亡くしてしまった女性と、彼の親友だった男性が恋人になる話です。橋本紡さんはライトノベルのレーベルに書いているときでも極端な状況を持ってこようとせず、日常を描いている作家ですが、今作も日常の一場面を描いてある作品でした。
 主人公である奈緒子は幼馴染の恋人、加地と死に別れてしまうのですが、彼の印象が強すぎて忘れることができません。それでも新しい恋人の巧と付き合うようになり、その恋人は彼の親友です。一見繊細そうに見える奈緒子ですが、その柔軟さは凄いな、と思います。非難しているのではなくて、単純に凄いな、と。誰かが心の中にいる(占めている)状態で誰かを好きになることができるって、簡単そうには聞こえませんし実際にはものすごく困難なことだと思います。割り切って付き合えるくらいなら元の彼のことをそれほど好きではなかったのだろうか、と迷ったりはしないのでしょうか。他人のことはよくわかりませんが、自分にはできないことです。できたらいいかな、と思うときもあるのですが、そこまで柔軟性が無いのでしょう、どこかで気持ちに壁があることを自覚します。
 ピュアな話と言えばそうなのでしょうが、奈緒子が結構自分のことばかりを考えていることが気になってあまり感情移入はできませんでした。加地と死に別れてショックを受けている自分、加地との関係をうわさされて傷ついている自分、忘れられないけれど巧と付き合っていて、巧のことも好きだけど加地のことが忘れられない自分。ショックを受けているだろうし、もともと優しい性格をしているのでしょうが、あまり周囲まで気が回っていない、と言うか周囲に甘えている彼女があまり気に入りませんでした。
 話は変わって、それなりに大きな会社で順調に出世してきた奈緒子の父親は、夢を追うと言って退職を考えます。それに納得のいかない妻と揉めることになり、長期休暇をとって逃げてしまいまうのですが、そりゃあ、いきなり何の話もせず会社を辞めて会社を起こしたいと言われても母親は怒るでしょう。しかも、作品の中では母親の心情は描かれずに判断結果も保留のままですので、どうしても母親に同情してしまいます。どれだけ優秀なのかは解りませんが(技術職なのに人当たりのよさだけが能力として描かれているので)、昇進が決まったとたんに長期休暇をとってしまっては会社の立場ももはや安泰ではないのではないでしょうか。それも踏まえての作戦だったらなおいやらしいです。
 著者は繊細な方で、やさしさがあれば良いと考えている一面がみられますが、甘えが目立つ登場人物が苦手です。学生を描いた作品とか、場面ではその繊細さが良い方向に出ていると思いますが、今回は良い場面もあれば同調できない場面もある、といった作品でした。ロマンチストは決して嫌いではないのですけど。