[読了] 五代ゆう パラケルススの娘





 魔物退治が生業の一家に育ちながら霊力をもたない少年、遼太郎。両親を亡くした遼太郎は跡継ぎとして期待されるものの、能力が無いため期待に応えられず、権力に惹かれた周囲の人間にうんざりする。そんなある日、圧倒的な力を持っていた祖母から英国への留学を指示され、遼太郎は英国へ向かう。祖母の紹介で出会ったクリスティーナ・モンフォーコンはメイド服の従者を従えた魔術師だった・・・。
 錬金術師が実際に活躍していた時代の物語です。まだまだ序盤であるという雰囲気ですが、主要な登場人物はある程度登場したように思えます。出来れば彼は最後まで正体を隠したままでいてほしかったかな、というのがありますが、今後どのような展開になるのか期待が持てる作品でした。
 真理を求める彼らは時に含蓄のある言葉を述べ、それは、現代にも置き換えられるような言葉であるのかもしれません。お気に入りの台詞を少しだけ引用します。が、まだ読んでいない方で、これから読もうとする方もいるかもしれませんので一応隠します。


 「みなは自分が自由でないのを知っているから、自由でいようとする者を見つけると、よってたかって押さえつけて鎖で足をつなごうとする」

 今でもありますね。自覚していないとその醜さが顕著に現れるような気がします。客観的に見なければ、と自戒。

 「いろいろなことを考えすぎて、結局身動きが取れなくなる。あなたの弱点はね、自分の羅針盤って物を持っていないことですよ」

 うわぁ。耳が痛い。いろいろ考えることは好きですが、動かないことも多いので身につまされる言葉です。もちろん他にも弱点はたくさんありますが。


 また、美しい男装の麗人であるクリスティーナに憧れる少年が言った言葉に

 「自分が無力であるのを知ることがそれほど嫌か?今のおのれが、自身の望むような姿ではないことがそれほどおぞましいのか?腰抜けめ。
 だったらなぜ努力しない?出来ないと口にする前に、なぜやってみようとしないのだ。自分が自分の望むほど能力が無いと思ったなら、あるべき自分に少しでも近づこうとするのが誇りと言うものだ」

 うん、まあ、確かにその通りなのですが、何の苦労も無く育ったぼんぼんに言われるほど頭にくる台詞なのかもしれません。周囲を省みることなく突き進んできた若者の台詞ですが、(生きるための)苦労を知らず歪むことが無かったゆえに真実の一面をついているのかもしれません。