岡崎裕信 フレイアになりたい1、2 

フレイアになりたい (集英社スーパーダッシュ文庫)フレイアになりたい〈2〉ハーデスが泣いている (集英社スーパーダッシュ文庫)
 デビュー作の滅びのマヤウェルのスピンアウト。マヤウェルの方がインパクトが強い作品ですが、あちらは完全な強さを持つ主人公であり、こちらは不完全かつ期間が限定されています。前作の感想もあわせてですが、もう少し末端の人間の不自由さとか力の及ばなさを書いてくれたらもっと面白い作品になるだろうなと思えました。能力にどの程度限定があるとかないとかが少々わかりにくく、ぎりぎりになってそうだったのかと思える部分もありました。不満に思える部分はあるのですが、それでも十分楽しめる作品で、以後の作品も読もうと思える作家でした。

 日日日 狂乱家族日記 7巻

狂乱家族日記 七さつめ (ファミ通文庫 あ 8-1-7)

狂乱家族日記 七さつめ (ファミ通文庫 あ 8-1-7)

 日日日の作品も当初はずっと追いかけていたのですが今継続して読んでいるのはこのシリーズぐらいでしょうか。今回はこれまで良い場面で登場しているもののあまりスポットが当たっていなかったくらげのお嬢様がメインです。スケールが大きいのか大雑把なのかよくわからない作品ですが、千年間も相手のことを思っていた「恋」がテーマです。ついに最強の存在も現れてしまいました。キャラクタがかなりたくさん登場しているので、スポットが当たっていない回の他の家族は今ひとつ地味ですが、これまでの作品で少しずつ内面を掘り下げてきているので出番は短くても想像で補強できる部分もあるかと思います。どうしても内面に触れると言うか、精神的な成熟を描くところに関しては今ひとつな部分もある日日日ですが、若者の感情を書いたり、若者が好む描写はだんだんこなれてきているのではないでしょうか。この作品もDVDを含んだ特別版のようなものが出版されているようで、人気もある程度あるみたいです。そちらは購入しませんが、本編はもう少し購入するつもり。

 城アラキ 松井勝法 監修 堀賢一 ソムリエール

ソムリエール 1 (ヤングジャンプコミックス BJ)

ソムリエール 1 (ヤングジャンプコミックス BJ)

 お酒が飲めないのにどうしてお酒を主題とした漫画や小説が好きなのかよくわかりませんが、知らない世界を覗き見るのが好きなのかもしれません。この作品は「ソムリエ」のようにもともとソムリエとして活躍していた人間が主人公なのではなく、ワインに親しんできた助成が主人公です。この女性は幼い頃から正体不明の「足長おじさん」に援助を受け、ある意味ワインに関する英才教育を受けてきました。何の円も由来もない人からそんな援助を受けるのもおかしいのできっとしばらくするうちに背景が明かされるとは思います。
 少し話がそれるのですが、お金持ちの人が無償で援助をしているとして、何か課題を課した時点でその人の人生を操ろうとしているのではないかと穿ってしまいます。もちろん、生きていくうえで十分なお金がないこともあるでしょうし、それを受けるか受けないかを選ぶのも本人かもしれない。でも、その判断が出来ない年齢のうちに判断を迫られたり、いつの間にか決まっていた事に逆らえないことと、何の援助も受けずにある程度選択の余地がある人生とどちらが良いのか考えてしまいます。その内容によって変わるとは思うのですが、特殊だと言える技能を身につけてから、これまでの人生は他人に操られていたものだった、と思うのか、素敵な世界に導いてくれたと思うのか。これは普通の人生にも言えることかもしれなくて、親の影響を受けるか他人の影響を受けるかの違いに過ぎないのかもしれません。伝統芸能とか技能もある意味それに相当すると思います。それで、上記のことを否定するのではなくて、幼い頃から何かを叩き込まれることにあこがれもあるのです。楽器が弾けたり絵が描けたり、何かを作ったりする技能をまったく持たないので、ないものに憧れているだけなのかもしれません。
 「ソムリエ」の時にも思いましたが、城アラキさんのワインに対する思い入れには凄いものを感じます。日本酒や焼酎でも同じような製作時の物語や、それを背景とした物語を創ることはできると思うのでそれらの作品も登場して欲しいです。もしかしたらもうあるのかもしれませんが、残念ながら「夏子の酒」ぐらいしか知りません。知らない国の物語だからなおさら想像が広がるのかもしれません。こういった作品を読むとアルコールを受け付けない体質が少々恨めしくなります。安定して面白い作品でした。続刊も楽しみ。

 宇仁田ゆみ 酒ラボ

酒ラボ (KCデラックス)

酒ラボ (KCデラックス)

 もやしもんの別バージョンのような感じ。主人公がお酒が飲めない点で共感してしまいます。日本酒の酒造メーカでお酒が飲めない人が責任者(杜氏だったかどうかは忘れましたが)の会社もあったので、お酒が飲めることが良いお酒を作る必要条件ではないのかもしれません。研究室のほのぼのした様子が面白いのですが、実際はどんな感じなのでしょうか。もっと殺伐としているかもしれないし、このとおりかもしれません。それでも、こんな研究室もあるのかもなあと想像するのも楽しいし、あったらいいなと思えます。てきとうに過ごしていそうに見える研究室のメンバもそれぞれが将来についてきちんと考えていたり、それに備えて行動しているところに好感が持てました。あっさりと終わってしまいましたがこの作品に関してはこんな終わり方がちょうど良かったのかもしれません。

 海冬レイジ かくてアダムの死を禁ず

 海冬レイジさんの作品は初めて読んだのですが、会話に西尾維新の影響を受けているのかな、とかんじる部分がありました。読む順番が前後しているだけかもしれません。物語はバーチャルな世界を現実の世界に再投影したような世界です。騙しあいが面白いと思える部分もありましたし、ちょっと無理があるかな、と思える部分もありました。最近流行りなのか帯には「ゴス・ツン・謎の三拍子」とあります。特にこれらの属性に思い入れがあるわけでもなく、特にツンデレについては若干食傷気味なのでそろそろ違った展開もあっていいのかな、と感じますがあったらあったで型にはまった面白さがあるとは思います。主人公が「能ある鷹は爪を隠す」タイプなのか、半分天然なのかはこの一冊ではよくわかりませんでした。シリーズ物らしいのですが、主人公の少年と、「ゴス」の少女が連続して登場するのは無理があるような気もします。それだけに、どのように続編を描くのかが楽しみでもある作品です。