[読了] 池上永一 テンペスト

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 上 若夏の巻

テンペスト 下 花風の巻

テンペスト 下 花風の巻

沖縄に詳しい人にとってはただの沖縄を舞台にしたライトノベル、との評価を少しだけみましたが、確かにそうかも、と思える部分と少し違うかな、と思える部分がありました。
主人公は性別を偽り、科試を受け女人禁制の首里城に入ります。それにしても、おそらく読者の多くがおもったことでしょうが、そんなに見分けが付かないものでしょうか。主人公の周りにいるのは国内随一の頭脳集団なのに、何年も一緒にいた人が装いを少し変えたぐらいで同一人物と気づかないものか。とはいうもののそこを変えてしまっては物語が破綻してしまいますので受け入れるしかありませんが、何度も何度も分からない、と言う部分が出てくるので少し引っかかりました。
実際どうなのだろう、と考えるのですが案外身近な人ほど「まさか」と考えるので気が付かないのかもしれません。むりやりです。かもしれなくありません。やっぱり一日二日ならともかく気がつくのではないでしょうか。宦官と自己申告されて、ああそうなんだと受け入れるのも、その他の厳しさと比較するとちょっと変。
その辺に不満は有るものの物語は常に展開が速く、エンタテインメント作品としては十分面白い。個人的に良いな、とおもったキャラクタは大酒のみの多嘉良。現実に付き合うにはどうだろう、とおもうのですが、舞台の中では張り詰めた空気を和らげているし、主人公との関わりもほのぼのしている。でも、隣にいたらいらいらするだろうなあ。
ライトノベルだといわれる理由は、女性同士の争いがどろどろしている割にコミカルに描かれるからでしょうか。「○○のおなーりー」とか多発したりして。聞得大君が特徴的なキャラクタとして存在しますが、彼女はコミカルではあるものの悲惨な境遇を辿ります。彼女の生き様からして仕方がない側面も有るかもしれないのですが、どれだけコミカルに描かれていてもなんだか痛々しい。いろんな作品に登場する不幸なキャラクタに、主人公の敵とは言え憎みきれず、むしろ若干同情してしまうのはどこかしら自身に投影してしまう部分が有るからかもしれません。あと、どうしても蒼穹の昴を思い浮かべる人が多いとおもうのですが、あちらは本物の宦官で、肉体的精神的苦痛を想像するとテンペストはただの衣装変更程度に感じてしまうかもしれません。もちろん、作中では少しでもばれると命取り、と何度も書いては有るのですが。
最後は歴史的な流れから当然なるべくしてなる結果なのですが、登場人物の最後があまり好きではありませんでした。
と、不満な点もいろいろと書きましたが話の展開が速く、飽きさせない内容でした。ライトノベルに払うには少し高額ですし、現在を描いた作品でもない(新鮮さが売りではない)ので、文庫化するまで待ってもいいのではないでしょうか。