桜庭一樹 ファミリーポートレート
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/11/21
- メディア: 単行本
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話になるような題材にしているので、どこかしら歪んだ関係が多いのですが、今回は若くして美しいまま娘を産んだ母親と、容貌は普通だけど、少し感覚がずれている娘の物語。娘が育っていく環境はある意味とても過酷で、その中で拠り所は母親だけでした。誰かのために生きていくのは良くあることかもしれませんが、ちょっと行き過ぎている。
家族に限らず、あまり愛情を持ったことももたれたこともないのですが、と言いたいところですが多分母親からは過剰なほどの愛情を受けている。それに応えたいと思いつつも、どこかでさめている自分がいて、ああ、こんな自分で申し訳ないなといつも感じている。誰かを好きになることもあるけれど、その瞬間から最悪のパターンを想像してしまい、大好きだけど悲しい、という状態になる。世の中の人は、上手に愛をはぐくんでいるなあ、と思う。最終的には何も残らない人生なのですが、それでいいのだと最近は思う。最近でもないか。ある程度大人になってからは、多分、この先寂しい人生を送るのだろうと覚悟しながら生きていて、それでもたまに誰かに少しだけ惹かれたりして、悲しい。多分「幸せになる意欲」が少ない自分のような人間と一緒になる人間がいてはいけないな、と考えているのだと思う。自分のことなのに多分、というのも変だけど、ちょっと突き放した目で見ているのだと自覚する。
物語で主人公は、あちらへこちらへとふらふらしてしまうし、その吸引力から本人は回りに興味がなくても周りは影響を受けてしまいます。最終的には一般的な「幸せ」に近づいているようにも思えるけれど、それでも主人公は母親と過ごした時間を最高のものだと思っているし、これからも変わらなさそう。それは、周りの人、特に身近な人にとっては辛いことなのかもしれません。主人公が、自分の避けている道を歩んでいるようにも感じるし、主人公ほどの影響力も才能も持ち合わせていないので錯覚だとも感じます。
自分がそれを手に入れられないだけに、家族や恋人との「幸せ」を描いた作品が好きで、どれだけありふれた物語でもそんな姿を描いている作品が好きです。しょせん物語だと言う人もいるでしょうけど、物語の中でしか(物語に投影してしか)幸せになれない人もここにいるし、そんな物語を参考に幸せを掴む人もきっといるのではないかと思います。
作品の感想からずれてしまいました。本作品では、485頁にちょっと挑戦的な言葉がありました。その言葉はきっと、誰に向けたものでもなく作者自身に向けた言葉なのだと思うのですが、清冽で、強い。これから先どのような作品を書くかはわかりませんが、現時点では続編が出たらためらわずに購入しよう、と思える作家です。