坂木司 ホテルジューシー

ホテルジューシー

ホテルジューシー

夏休みを利用して長期のアルバイトを探していた○○は沖縄のホテルで働くことにした。大家族の長女として育った○○は家事全般が苦にならず、のんびりした気質の人に囲まれた楽しい仕事だったが、オーナーの知人が経営するホテルで人手が足らず、急遽そのホテルで働くこととなった。
前作の「シンデレラ・ティース」と対になっている物語です。はじめの何作かは既読感があったのは気のせいかと思ったのですが、よーく考えてみると「Sweet Blue Age」に掲載されていました。少しずついろんな世界がつながっているのは面白い。それぞれが単品でも楽しめるけれど、あわせて読むともっと楽しい作品は好きです。
主人公のヒロちゃんはまっすぐな性格として描かれていますが、物を大切にするとか、きっちりしたがるところは共感できます。まあ、きっちりするのは公の場だけで、それ以外はぐだぐだなのはヒロちゃんとは異なりますが。そのヒロちゃんですが、若い割にはいろいろ物怖じしない性格です。若いから物怖じしないのかもしれませんが、なかなか他人に口出しするのも気力が必要で、疲弊することがわかっていながらいろいろと口出しするヒロちゃんは好ましい。実際にそばにいたらちょっと口うるさいなあと感じるかもしれませんが、こういった人は必要な存在で、まだまだ若いのでものごとの一面からしか見られないところはあるものの素直だし(これは大きい)、素敵な大人に慣れるのではないでしょうか。
オーナー代理はなぜ代理なのかとか、どうやって生活しているのかなどなぞを残しています。年齢にしても直接本人が言った場所はなかったのでもしかしたらヒロちゃんの思い過ごしでもっと若いのかもしれません。ほかのキャラクタも含め、のんびりした性格の人が多いのですが、おばあちゃんがとても良い。飄々としたご老人って多少失礼なことをしても受け入れてしまいそうな気がします。ここまで楽しいご老人なら一緒に仕事をしたい、とは思いませんが。あとがきにもあるように、実際の沖縄がここまでゆっくりとしているわけではなく、誇張された世界なのでしょうが、うわさに聞く限りでは沖縄時間なるものがあるらしく、外から来た人たちは最初戸惑うようです。また、沖縄に慣れてしまってから戻ると窮屈に感じてしまうそうです。
物語ではいろいろとなぞを解いているようですが、実際はヒロちゃんが納得するかどうかの話で、あまり問題(解かなければ誰かが困る謎)にはなっていません(少しはありますが)が、それだけにほのぼのとしており、楽しめるのではないでしょうか。これだけ短編があったのに全く浮ついた話がないヒロちゃんだったので、ぜひ続編を出して恋愛模様なども書いて欲しいです。