桜庭一樹 赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説

 これを読んでいるときのイメージは日本海側の重い雲、灰色の空でした。なぜか快晴のイメージは一瞬も出てきませんでした。
 最近の著者がテーマとしているのか、母娘の間にある思いやコンプレックスが描かれています。今回は母娘だけではなく祖母も加わった三代に渡る物語で、それぞれの時代も描いていることからある部分は体感した経験として懐かしく、ある部分は知識として知っていたものを喚起される感覚でした。
 今の恋愛結婚がありふれた時代から考えると最近の人は想像しにくいかもしれませんが、昔は決められた相手と結婚するのも当たり前のように行われてきました。作中にあった「恋愛とは最近の概念だ」という話はよく聞く話ではありますが、日本もだいぶ変わっているのだなと感じられる話です。
 祖母は未来視ができ、母親は伝説の不良だったことを知ると娘としてはごく普通な自分に引け目を感じるのもなんとなくですがわかります。でも、普通であることは結構難しいのではないでしょうか。
 祖母が持つ力は確かに凄いものですが、世の中を変えるほどの力は無く、祖母自身もそれを望んだわけではありません。置き去りにされた自分に引け目を感じている祖母はもしかしたら主人公と鏡像になる存在であり、ひとは無いものを求めることを描こうとしているのかな、と思いました。そのてん母親は奔放な青春を過ごして、誰かに(大勢に)認められる仕事を得、燃え尽きるように終わったので一見自由に生きたように見えます。ただ、義理人情に厚いことからそれに縛られているという側面がありました。少し大げさな言い方をすると、どんな生き方をしても埋められないものはあるし、それも含めて人生なのだなと思います。