支倉凍砂 狼と香辛料 5巻

狼と香辛料〈5〉 (電撃文庫)

狼と香辛料〈5〉 (電撃文庫)

 ホロとロレンスの会話が楽しい作品です。ロレンスが頭をひねってひねってようやく搾り出すようにして出した答えがホロを喜ばせることになってしまう場面がいくつかあって、それがどの場面も面白い。こういうウィットに富んだ会話がしてみたいな、と思うことがあります。頭がいい人と会話しているととても楽しくて、たまに含みを持たせた会話をしてみるのですが、ん、どういう意味、と返されてしまって説明をするのも面倒というかなんなのでそのまま流してしまうこともあります。残念。頭が良くてもこういった会話はライトノベルとか読んでいないとできないのかもしれません。つまり、周囲にはライトノベルを読んでいる人はほとんどいなくて(知らない振りをしているだけかもしれませんが)、ライトノベルを読んでいることもばれていないと思います。ばれてもいいのですが。
 ロレンスは毎回異なったパターンで失敗するというか、足元をすくわれます。それだけ商売というのは大変なのでしょう。今回の話ではロレンスが商人や職人と会話して、その巧みさに惹かれるような場面があるのですが、全部読み終わってから改めて考えると、それらの会話ももしかしたら全部策略に含まれるかもしれないと思うようになります。そう考えると、かなり怖い。とても入り込めない世界です。
 ほぼ永遠の寿命を持つホロと、限られた命であるロレンス。二人の歩む道は偶然重なったものの、ホロの時間から考えれば一瞬かもしれない。二人がいつから別れの場面を考えていたのかはわかりません。ホロの故郷を探し当てるのとたまたまタイミングがあったのか、せめてそれまでは楽しく過ごそうと考えたのか。これは、流れる時間が異なる二人の話ですが、同じ人間同士でもいえることかもしれません。楽しい時間はいつか終わりが来るのかもしれない。でも、それを恐れて今を楽しめないのはもったいない。誰かを好きになるといつも終わりを考えてしまいます。幸せな結末を予想できないのは悲観的だからでしょうか。いつか、もう一度楽しい時間をすごせる日が来たらいいなと思いつつ、相手に嫌われたらと思うと積極的に行動できなくて、今は、楽しかった記憶だけが支えとなっています。せめて相手の人ぐらいは楽しく生きていると思いたい。
 ロレンスは思い切ったのか、ホロに告白します。やはり、時間の流れが異なる二人の結末が幸せに終わるためには、一発逆転の何かが必要だと思うのですが、どうなるでしょうか。まだ終わりが見えそうで見えない物語です。二人の会話ももっと刺激的になっていく予兆もあり、今後もとても楽しみな作品です。