冲方 丁 オイレンシュピーゲル

スプライトシュピーゲルでだいぶ文体に慣れたのか、するすると読むことができました。スプライトシュピーゲルよりは若干対象年齢を上げたような印象。涼月、陽炎、夕霧の3人の少女が活躍する物語で、それぞれの少女はやはり機械の体を得るまでに凄惨な経験をしています。その凄惨な経験が自分の扱う武器につながることで、その経験を忘れないことはいいことなのか悪いことなのか。
短編が3話あって、それぞれに焦点を当てた作品です。一番良かったのは陽炎の話。自分の感情が上手くつかめないもどかしさが良かった。切ない話なんだよなあ、と思うと、それがエンターテインメント小説で描かれていて、楽しんでいることに少しだけ罪悪感。悲しみを追体験することも読書の「楽しみ」の一つなのですが、他者(フィクションであるとしても)の悲しみを想像することを「楽しみ」と呼んでいいのでしょうか。自己完結すると「良い」。喜怒哀楽、どの感情をとるにしても登場人物の感情を想像したり、自分の中のなにかに置き換えて再生したりすることが読書の楽しみだからです。もちろん衒学も楽しいし、風景の描写も楽しいので、前述のことがすべてではありませんが。
連載作品なので(これからも連載かどうかはわかりませんが)、次に出るのは来年でしょうか。それまでこの設定を覚えているかとか、あまり間をおくとこの文体に慣れるまでちょっと時間がかかるだろうな、と言うのがあってできるだけはやめに出して、適当なところでまとめて欲しいところです。