海堂尊 ナイチンゲールの沈黙

ナイチンゲールの沈黙

ナイチンゲールの沈黙

チーム・バチスタの栄光でこのミス大賞を受賞した海堂さんの第2作です。前作の感想はここ。医療ミステリは結構好きな分野ですが、どうしてもわかりにくい文章になりがちです。海堂さんの2作は読みやすく、情報も不十分とはいえわかりやすく書いてあるのでとても読みやすい作品だと思います。
前作で不定愁訴外来を担当することになった田口が押しの弱さからある患者を受け入れてしまうところから物語りは始まります。ミステリとしての完成度はわかりませんが、個性的な登場人物が舞台を盛り上げます。今回新たに登場した加納も本当にいたら組織ではつぶされるだろうな、と思えてしまうキャラクタですが、物語ではいい味を出しています。新しいキャラクタが登場したためか白鳥の出番は少なく、それだけにインパクトとしては前作に劣りますが、登場人物もある程度そろってきたようですし、装丁からもシリーズが続くことが予想されるので今後にも期待です。
一方、不満な点としては、新しい技術をふんだんに導入していますが、加納の使っている「紙芝居」はおそらく今の技術を越えているし(処理速度が)、オートプシー・イメージングは著者の専門分野かもしれませんが願望が入っているのかな、と思えました。新しい技術を使うことに文句があるわけではありませんが、今回は解決に至る道筋に多用されているので少し気になりました。
安易に全員が治ったり、すべてが収まるところに収まる展開ではないところに好感が持てます。子供の病気は文章で読むだけでもつらい。でも、子供に限らずいつどのような病気になるかはわからないし、嫌だ嫌だで避けられるものでもありません。一万人に一人の病気でも宝くじに比べれば格段に可能性は高く、宝くじに当たる希望を持っているのならその逆も(不運なことに遭遇するかのせいも)考えないことはおかしいかも知れません。悲観的に覚悟をするわけではありませんが、せめて、日常から考える癖をもてたら良いな、と思います。