五代ゆう パラケルススの娘 5

 既刊の感想はこちら。ついに聖なる血をもつクリスティーナを狙う組織が登場します。これまでどおり遼太郎をめぐる少女たちのほほえましい戦いもありますが少々シリアスな雰囲気になります。今回のテーマは「家族」もしくは「家庭」でしょうか。帰るところもなく、血のつながりがある人たちとも離れて生活しているので逆にそれらの良さが解るような気がします。クリスティーナはこれまで身近なものを作らないようにしてきました。其の姿勢は今の状況に近いと言えば近いかもしれません。大切なものを作らなければ失うことを恐れなくても良い、と考えてしまいますね。無いことには耐えられてもなくなることはとてもつらい。最終的に残るのは自分だけなのですが、そのような最期はきっと寂しくてたまらないだろう、と言うこともよくわかっているつもりです。
 本人が望んだ形ではないかもしれませんがクリスティーナはたかめさんと知り合ったことを契機に身近な人間が増えてきています。感情を持たない創造物であるレギーネの言葉がとても悲しげに、重く感じられます。彼女もまた望むけれど届かないものに思いをはせているのかもしれません。
 次回は重くなった空気から離れてそれぞれの一場面を描いた短編集になるようです。それはそれで楽しみです。作家暦の長い方なので端々に身に沁みるような言葉があることもこの作品の楽しみのひとつですが、どたばたコメディのテイストも捨てがたいので、いろいろと楽しみにしつつ次回作を待ちたいと思います。