北川歩実 運命の鎖

運命の鎖 the geneticfuture (創元クライム・クラブ)

運命の鎖 the geneticfuture (創元クライム・クラブ)

 能力は遺伝するのか。着床前診断の是非は、その結果を受けて人はどう判断するのか、などを主題とした連作です。理論物理学者として活躍していた志方は50%の確率で遺伝するアキヤ・ヨーク病にかかっており、それを苦に失踪しました。彼は精子バンクに登録しており、仲介業者を経て生まれた子供たちは苦悩します。アキヤ・ヨーク病は肉体だけでなく知性も衰えていく病気なので、自分のことのみとして問題を考えられません。子供に遺伝するのか、子供が大きくなったとき自分はまともでいられるのかなど、考える点はたくさんあります。
 まだ子供はいませんし、授かる予定も無いのですが、いろいろと考えさせられる作品でした。自分の子供が欲しい人、病気に関わらず自分の素養が遺伝して欲しくないと思う人、何とかして悪い要素を除外したい人など、子供が欲しいという点は同じでも環境などで様々な意見があると思います。今のところ子供は欲しくないし、そんな立場で他の立場の人をどうこう言う気にはなれません。ただ、何かあったときのために考えておく必要はあるかもしれないと思います。
 作品自体は、どこが穴だと指摘することはできませんが、なんとなく齟齬があるような気がします。登場人物の思い込みが激しく、物語をややこしくするためだけに加えられたのではないかと思える設定があったりします。これまでの北川歩実作品と同じ傾向ですね。それでも一気に読むことができる筆力は確かなものですし、今後も作品を読みたいと思える作家だと改めて思いました。