荻原浩 あの日にドライブ

 たった一言の失言から銀行を退職することになった伸郎。再就職までの繋ぎと考えていたタクシー運転手だが、簡単と思い込んでいたこの仕事のノルマすら果たすことはできない。メガバンクの出世頭だった自分にはもっとふさわしい仕事があるはずだと再就職をためらううちに次々に機会を逃している伸郎。時間ができてしまった彼は、銀行での仕事が本当に自分のしたかった仕事なのか、どこで人生の分岐点を誤ってしまったのかを考える……。
 伸郎の妄想は、いったい何歳なのだと思うほど幼稚な妄想で(大人びた妄想があるのかどうかは知らない)、あまり共感はできません。結局はプライドが邪魔して思うように動くことができない伸郎は、家族が冷たくなってしまったのは自分の収入が減ったからだと考えます。終盤、妻との会話の中で、ようやく家族が自分に対して気を使っていることに気がつきます。何かに飛びぬけた能力を持った人間が主人公では無いので、共感しやすいのかな、と思いましたが、結局物語の最後でもちっぽけな溜飲を下げる程度しかなく、その姿も美しくはありません。何を描きたかったのかが良く伝わってこない作品でした。