冴木忍 リュシアンの血脈2 夜を往くは影の旋律

 古代の大魔道士、リュシアンの子孫であるレイスファンはその血筋から妖魔をひきつけてしまう。人々に疎まれた彼の血縁者は殆ど根絶やしにされた物の幸運にも生き延びたリュシアンは命の危険にさらされる。命と引き換えに魂の契約を結んだレイスファン。彼と契約を結んだのはヴァルと言う妖魔で、強大な力を有するが、どこかその行動派レイスファンを指導するかのよう。ヴァルとの契約を果たすため旅を続けるレイスファンは村人全てが殺害された村を訪問する。村人の殲滅には謎の笛使いが関与していた。
 冴木忍さんの新作がこれほど早く出ると逆に心配してしまうのはファンとしていかがなものか。まあ、それはともかく新作が出て喜ばしい限りです。富士見ファンタジアのシリーズと混同しないように気をつけなければ。
 冴木さんの作品では強大な力を持っていてもそれを望んでいなかったり、その力のために不幸になってしまう主人公が多いですね。感受性の強い頃に結構たくさん彼女の作品を読んでいたので、その影響もあってか、今は普通の生活をとても好ましく思います。普通であることはとても貴重で、かけがえの無い物であることを彼女の作品では繰り返し主張しています。その主張にはとても強く同意できます。だから、彼女の作品がとても好きですし、感動するのでしょう。
 導師リジィオとかメルヴィ&カシムシリーズとか、設定は魔法使いが普通に現れる世界で、イラストもアニメーションのようなので大人からは敬遠されがちかもしれませんが、傑作だと思っています。読んだのはだいぶ前ですが、内容は今でも覚えています。それだけ内部にしみいってきたからでしょう。設定が変わっても主張する内容が変わらないことは決してワンパターンであるというわけではなく、一貫した考えがあるからだと思いますし、どの作品もとても優れています。
 昔から作者の印象が変わらないのはある意味すごいかも。もしかしたら結婚されているかもしれませんし、子供もいるかもしれません。あとがきにそのようなことをかかれない方なのでなにもわかりませんし、少ないあとがきからいける印象は20代前半のようです。
 話が逸れました。この作品でも主人公は強力な力を持っています。いまだ発揮することはありませんが、レイスファンは強大な力を行使したいとは考えていません。幼い頃奴隷として育った彼は些細な優しさを憶えていますし、それを与えてくれた人が自らも苦境にあったことを思えば強大な力で誰かを踏み台にしてまで楽な暮らしをしたいとは考えていません。それは簡単なようですがとても難しいことだと思います。身近に楽な方法があればどうしても選択してしまうのが人間の弱さではないでしょうか。これから先他人に影響を与えるような権力を持つことはきっと無いでしょうが、たとえそのような機会を得たとしても他人を虐げてまで得るものに価値はないと言う価値観を自分が持っていることを忘れたくはありません。
 冴木さんは他の出版社にあまり浮気しませんね。スニーカー文庫か、富士見ファンタジア文庫が殆どだったと思います。富士見では卵王子カイルロッドとか天高く、雲は流れシリーズが結構長編になっていますが角川では比較的短い話ばかりなので今回ももしかしたら短い話かも、と思っています。久しぶりに過去の作品リストを見てみましたが、どれもこれも大好きだった話ばかりです。これほど(自分にとって)はずれの無い作家も珍しいですね。大好きです。主人公は殆どが苦労人ですが、その苦労を誰かに押し付けようとしません。苦労の中に垣間見た優しさを忘れませんし、いたずらに悪の道へ手を染めようとしないその姿勢にとても共感します。
 スニーカー文庫で特に好きなのは風の歌、星の道シリーズと妖怪寺縁起シリーズです。手放していないので山積みになったほんの中に埋もれているのでしょうね。いつかもう一度読み返したい作品たちです。