さそうあきら トトの世界

トトの世界 (1) (Action comics)トトの世界 (2) (Action comics)トトの世界 (3) (Action comics)トトの世界 (4) (Action comics)



 人に接することなく育てられた少年、トトは彼を監禁していた異常者が逮捕されることで人の社会に触れる事になった。脱走したトトと偶然であった真琴はトトを匿う。言葉を知らないトトに物事を伝えることは想像以上に困難だった。次第に言葉を憶えるトト。言葉を知るということは世界を知ること。トトは今まで知らなかった世界に触れ、感動する。異常な成長過程を経たトトを世間は放っておかないが、トトには出生の秘密があった。
 テーマのひとつは”言葉”であるものの、語感の全てがテーマであると言っても過言ではない作品です。これまで何作かさそうあきらさんの作品を紹介してきましたが、共通して言えることは、短い話の中にものすごい密度で物語が描かれていること、そして生きることや人とは何かと言うことに真剣に向き合っていることです。
 言葉を得たときの記憶はもう無くて、物心ついた時には既に言葉がありました。だからと言って生まれながらに持っているわけではなく、世界が広がった時の記憶が無いことが少し残念です。
 言葉には力がある。昔からそう思われていたからこそ言霊という言葉が生まれたのでしょう。確か京極堂が言うには言葉は掛けるほうも掛けられるほうにも暗示として刷り込まれてしまうとあったと思います。”人を呪わば穴二つ掘れ”とはどちらにも言葉の力が影響しているからなのでしょうね。
 人(生き物)の持つ感覚はとても素晴らしく、世界に直結しているのですが、そこから自分と世界との繋がりを認識できるのは言葉があるからです。初めに言葉ありき、と言ったのは神だったかキリストだったか覚えていませんが(同一?)、それだけ人にとって言葉が重要であることを示しています。
 物語は今後の困難を示唆しつつ終了します。ある意味不完全な終わり方をしたのは、読者に考える余地を与えたからかも知れません。さそうあきらさんの作品は人の醜い部分や美しい部分を鋭く描き出しており、いろいろと考えるきっかけとなるので、とても好きです。マイナな雑誌に掲載しているのか、いつも単行本になるまで知らずにいるのですが、まとまって読むことが出来て却っていいかもしれません。今後もどんな作品が出てくるのか、とても楽しみです。