山田詠美 風味絶佳

風味絶佳

風味絶佳





 70歳を過ぎても若いボーイフレンドを脇に自らカマロを運転する祖母、不二子。志郎が働くガソリンスタンドを訪れる彼女は颯爽としたたたずまいからスタンドの人気者となる。志郎がガソリンスタンドで働くことを決めたとき、反対する両親を説得してくれたのは不二子だった。自らの規範に則って行動する不二子が志郎に与えた影響は大きいけれど、不二子のことを理解しようとしない志郎はあまりに自由な不二子に苛立ちを覚える・・・。
 どの作品も山田詠美らしさに満ちていますが、表題作の「風味絶佳」が一番山田詠美らしい話だったように感じます。年をとっても情熱を失わないこと、辛い過去があったとしても飄々と、そして颯爽と生きていく不二子はとても格好良く見えました。
 表題作以外でも、作品全体に通して思ったことは、この作品の中で恋愛をしている男性は全て仕事に誇りを持っているなあ、と言うこと。誇りを持っている、と言うのが言いすぎだとしたら自分が仕事をする意義を判っていると言い換えても良いかも知れません。
 「間食」ではメインの雄太よりも寺内の恋愛する様子を見たい、と思いました。「夕餉」の、面子が一番重んじられる社会から脱出しようとする女性が、料理で自らの価値を示そうとする姿は楽しげであるにもかかわらず切ないものでした。「海の庭」で初恋をやり直そうとしている二人は、互いに”そんなんじゃないよ”と言いつつ”そんなん”になろうとする気配が感じられます。「アトリエ」は”ゆんゆん”と電波が飛んで来ているのでしょうか。あまり馴染めませんでした。「春眠」の二人はある意味羨ましい二人でした。ぬくぬくしたいです。
 非常に優れた短編集だったと思います。全ての作品に共感を感じたり、感銘を受けたりするかどうかはわかりませんが、どれかひとつはシンクロできる作品があるのではないでしょうか。