[読了] 本多孝好 Will

WILL

WILL

 もうすっかり細部を忘れてしまったMomentの続き。これを機会に再読しようか、とおもったのけれど、だいたいは覚えているのでまあ良しとしよう。
 本多孝好さんの文章は特徴的で、あまり音を感じさせない文章だ。いつも読んでいる途中はまわりに静寂があるし、読後もしんとした感じがのこる。その感覚が好きで、これまでの作品はすべて読んでいる。村上春樹に似ているとの意見もよく目にするけれど、似ているような似ていないような。
 実際に調査しているのかどうかはわからないのだけれど、葬儀屋の利益率についてかいてある部分があった。確かにそれくらいでないとやっていけない部分があるのだろうとはおもうのだけど、数字を見てしまうとあまりお世話になりたくないものだ、などと考えてしまう。有名になった映画のおくりびとではたぶんそういった面は描いていないのだろう。だからといって、小さな葬儀屋が淘汰されてしまって競争がなくなってしまうともっと状況が悪くなってしまう気もするし、むずかしいところ。
 しかし、佐伯さんはすごい。主役でもないのにこれほど格好いいとは。彼がなしえたことは情報として言葉にしてしまえばそれほどのことでもないのかもしれないけど、なかなかできるものではない。細かいことを書いてしまうのはこれから読むひとにとってもったいないので書かないけれど、少なくとも自分にはできそうにもない。
 本編からは少し離れて、と。自分の気持ちをちゃんと伝えることは結構難しいことだ。今までずっと大切に思っていたのに、ほんの少しずれてしまい、そのままでもまあ分かってもらえるだろうと放っておくとずれが大きくなってしまうこともありそう。信頼していても、それを伝えないと分かってもらえないこともあるので、陳腐だとおもわれても言葉にしたり形にしたりした方がいいのかもしれない。
 先日、癌の疑いがあると言われた。その癌について調べると、なかなか辛そう。うーん、これで死ぬのかとおもったけれどそれほど落ち込まなかった。あまり人生に期待していなかったこともあるし、それよりもどうやったら苦しまずにすごせるだろうかとか、ひとりで死ぬのだからどこでどうやって死ぬか考えておこう、と。精密検査をするまで眠れないこともなかったし、食事がのどを通らないこともなかった。たぶん、死ぬ間際になるとまだ死にたくないと考えるのだろう。それだけ想像力が足りなかったのかもしれない。結果としては誤診というか勘違いというか、精密検査では何も見つからなかった。ほっとした反面、まだまだ生きるのだなと希望のない人生が続くことにがっかりしたり。とは言うものの、闘病しているひとのHPなどを見ていると甘っちょろいことを言ってもいられない。かといって急に何かに燃えるわけでもない。まあ、自ら命を絶つことはないし、これからも淡々と生きるつもり。で、このまま本編に戻らず終わり。