[読了] 真藤順丈 庵堂三兄弟の聖職

庵堂三兄弟の聖職

庵堂三兄弟の聖職

 遺体の一部を加工して櫛やペーパーナイフなどの道具を作る、遺工師(造語)が主人公です。遺体をいじくるだけなら賛成は出来ませんが、亡くなった人の一部を手元に置きたい、という思いは少しだけわかるかも。気持ちはわかっても、実際に欲しいとは思わないのですが。そこまで出来るのってたぶん家族ぐらいのつながりがないと許されないと思うのですがそこまで家族に思い入れはないし(と、書くと冷酷なようですが)、失くしてしまいそうだし。
 この作品はホラーというよりは家族のつながりとか、人の思いを描いたものではないかな、と感じました。末っ子が好きな人に告白する場面があって、めちゃくちゃなのですが勢いがあってちょっと良かった。異体に関する描写は残酷なものが多いのですが、文章を読んで一応頭の中で映像化はしているもののそれほど酷薄には感じませんでした。とりあえず、遺体に対する敬意が感じられたからかもしれません。最後に論評が載っていて、そこでは死体を損壊することが日常になっている世界が恐ろしい、とありました。確かにそのとおりだなとも思うのですが、あまりその点をホラーとして捉えるのは少し感覚が異なります。遺体の取り扱いがあっているのか間違っているのかはわかりませんが、途中からでたらめになっていたような印象もあります。読後感はそれほど悪くなかったし、次回作も読もうかなと思える作品でした。