本多孝好 チェーン・ポイズン

チェーン・ポイズン (100周年書き下ろし)

チェーン・ポイズン (100周年書き下ろし)

特に何の楽しみもない、特に未来に期待も持てない36歳の女性がふと漏らした「死にたい」という言葉にあるひとが反応した、という話。
 本多孝好さんの小説は「死」と向き合っているというか、真面目に考えているというか、とにかくいろんなことを考えている人が登場します。内容に触れるので隠します。
 病院での必殺仕事人、ではないですが、今回ももしかしたら病院関係のひとが肝なのかと思いましたが違いました。作品に登場した院長は死に対して達観している向きがありますが、あまりに多くの死をみ続けると感覚が変わってしまうのかなと思います。小説を読んでいると、もし自分なら、と考えることがあります。立場だったり、それが出来る能力があったり、いろんなシチュエーションで自分ならどうするかを考える。今回だと、もし自分が不治の病に侵されたらどうするかを考えました。多分、あまり延命治療を望むことはないのだろうと思います。そのときにならないとわからないこともたくさんあるのでしょうが、あまり今の生活で「未来をみたい」以上の望みはなくて、死ぬのだといわれたら比較的あっさりと受け入れてしまいそう。それでも苦しみたくはないし、痛いのには鈍くてもいたいのは嫌だし、ホスピスに入るとは思いますが。
 死ぬ気になれば何でも出来る、というのは幻想ではないかと思っていて、死んだほうがらくだと思える状況があってしまうからひとは自ら死を選んでしまうこともあるのでは、と思います。どんな状況でも生きていたら何とかなるとか、もちろんそういいきれる人はすごいなと感じるのですが。
 今回の作品では、死を覚悟した女性が登場します。彼女は「死にたくない」と思えるものを得た。それはそれですばらしいことだし、それによって助かる人もいるのだと思うのですが、必ずしもこううまくは行かないだろうし、彼女も今後どうなるかはわからない。そういった意味では希望ばかり満ちた作品ではないのですが、相変わらずの静寂さが満ちた文章も好みだし、次回作も読みたいと思えました。