彩雲国物語 紅梅は夜に香る 緑風は刃のごとく

  連続刊行されていたことを知らなかったのでたまたま本屋さんで見かけた「緑風は刃のごとく」を先に購入してしまい、意外と「紅梅は夜に香る」が見つからなかったので読むのが遅れました。
 そんな事情はさておき、今回はまたヒラ役人になってしまった秀麗がこのままでは首を切られてしまいそうなのに他のひとを助けるために奔走してしまう話です。相変わらず自分に厳しいと言うか、客観的に自分を見ることができている秀麗ですが、少しだけ弱音が出てきます。まあ、世間一般から言えば弱音と言えるものでもないかもしれませんが、純情純真まっすぐ娘ではないことが改めて解る、良いエピソードだったのではないでしょうか。庶民の視点から物事が見えるのはいいのですが、そのわりに男女関係についてはうぶなところがあって、知らないふりをしているのか、庶民の生活をしながらでも実はいろんな情報を静蘭や父親から遮断されていたのか。後者なら過保護が過ぎる気もしますし、頭が良い子なので一を隠すためには十ぐらい隠さないといけないのではないかと思います。
 今回も新しい登場人物が何人か登場します。あまり政治のことはわからないのですが、中央に上っていくような人は凄く賢い人が多くて、その能力の生かし方を間違っている人もたくさんいるのだろうな、と思います。そんな魑魅魍魎が跋扈する世界で活躍するには人が良すぎるし、いろんなしがらみから抜けられなさそうなタンタンですが、とぼけた味わいを出しながら事件の解決にかかわっていきます。あまり努力もしていないし、考えているわけでもないけれど真相を見抜く、と言うひとはいないと思っています。今のところ作中でタンタンはそういった人物像の描かれ方ですが、たとえ直観にしてもそれを磨くためにはいろいろな経験が必要ではないかと思います。ただ、あまり努力をしていないとの評価が秀麗やその他の人物と比較すると、と言うことでしたら少し判断基準が厳しすぎますが。
 世の中は人と人のつながりが避けられず、良い家に生まれたことも、それを元にすばらしい人たちと出会えたことも秀麗の功績だと思います。それでも他者の手を借りて役人として生き残るのはそれほど卑怯なことなのか、とつい考えてしまいますが、その部分だけを切り離してみてしまうと卑怯なことに見えるのだろうな、と思います。現在でも言えることなので、一面だけを見て判断しないようにしないと、と自戒します。初めての女性官僚なので秀麗は誰にも文句を言わせない形で上に行かなくてはいけないのでしょう。そう思うと王から恋情を受けることは、役人としての秀麗にとってはものすごく不利なことでもあります。官僚としての秀麗がなすべきことを成し遂げることはこれまでの物語の終盤などで、「後に〜と語られる」とあるのである程度約束されているようなものですが、個人として幸せになれるのか(と言うかどうやって個人的に幸せになるのか)が楽しみです。秀麗はものすごく若くして政に携わるようになったので、公と個をきっちり切り替えるのかもしれません。15年政治をしたとしてもまだ31歳ですし。
 まあ、それはまだまだ先の話で、今しばらくは秀麗の活躍ぶりを楽しみたいと思います。