荒野の恋 第二部 bunp of love

荒野の恋 第二部 bump of love (ファミ通文庫)

荒野の恋 第二部 bump of love (ファミ通文庫)

 悠也がアメリカに行ってしまっても変わらない毎日を過ごす荒野。少しずつだが接触恐怖症は和らいできたものの男子との会話には緊張する。クラスメイトの一人で、男女ともに分け隔てなく接することで人気のある阿木阿木は荒野に好意を寄せるが、恋の気配に鈍感な荒野は気が付かない。そうこうしているうちに、クラス内でのカップルができたり、仲のいい友人に人気があることがわかったり、荒野の周りにも恋する少年少女が見られるようになった。荒野は悠也への思いをひそかに抱きつつ、成長する。
 1巻の感想はここです。ブログを始めたばかりのころで若干文章が硬いかも、と今この文章を読むと感じます。今は良くも悪くも力が抜けています。
 桜庭さんはやはり少年少女を書かせたらとても上手い作家だな、と改めて感じます。恋にあこがれていてもうかつには手を出せない微妙な気持ちや、そのとき大人に対して抱いていた気持ちなどが良くあらわされていると思います。思います、と言うのは、実際にはどうだったのかあまり思い出せないからです。荒野は、このままだとすぐに大人になってしまうと恐れていますが、早く大人になりたかった。子供のままでいたいと思えることは、もしかしたらとても幸せな環境に居ることを示しているのかもしれません。
 荒野の父、正慶さんは相変わらずおもてになります。

大人という生き物は早々ときめかないものなのだよ。

と言う彼の意見には同意できるようなできないような。同じ「赤」という単語から連想する色が個人個人で微妙に異なるように、子供には子供の、大人には大人のときめきがあるのではないかと思います。おそらく、正慶さんもそのことを承知の上で語ったのではないかと感じました。なぜなら、正慶さんは「ときめき」を仕事にしている恋愛小説家だからです。
 子供の世界はとても狭い。今も決して広いとはいえませんが、子供の世界はとにかく閉じていて、周りにあるものがすべてです。だから、それぞれに思い入れが大きかったのだと思いますし、その影響から逃れがたい。ただの女たらしで存在感が薄い父親かと思っていましたが、娘に関しては鋭い観察眼を持ち、些細な変化も見逃しません。視点が荒野なので、荒野の母親を忘れていないだけのようにも見えますが、きっと、父親としての愛情を彼なりの形で注いでいるのでしょう。しかし、見栄えが良いからのでしょうか、かなり女性の出入りが激しい恋愛小説家です。恋愛小説家ではない桜坂先生に小説家はモテるのかどうか、桜庭さんからたずねて欲しいかも。
 同じ家に住むもう一人の大人である容子さんは次第に荒野と家族らしくなっていきます。容子さんの年齢を忘れてしまったのですが、まだまだ若そうです。容子さんの荒野との距離のとり方は好感が持てます。自然な形で家族になろうと、本心は結構必死だったかもしれませんが、こうやって次第に家族になっていくのかも、と思いました。
 そして、この家から出て行ってしまったあの人は、荒野に思い出だけを残して、今回は登場しませんでした。かなり荒野にとっては印象深い人だったと思うのですが、もしかしたら第3部でも実際には登場しないかもしれません。もしそうだったら、なかなかクールな展開だな、と思います。
 今回登場した阿木君は、はじめは中学生の割りになかなか好人物だな、と思っていたのですが、処世術などと言い出したときの失望感が大きかったです。とはいえ、閉じた世界での処世術ですし、実際に大人の世界で生きているアイドルや子役のそれに比べればまだまだ甘いのでしょう(騙されましたが)。自分を痛めつけるのはあまり良いことではないのですが、多感な年頃ではそれも甘美なのかもしれません。あと、利用された少女が過剰に傷つかなければ良いのですが。
  
 1部も2部もとても面白く、名作になりそうな予感がします。はじめから3部作と謳っているからにはきっと構想は立ててあるのでしょう。大人になってからの時間はとても長いけれど、この時代の時間はとても短い。あまり記憶に残るような出来事はなかったので、追体験と言うわけではないのですが、楽しみたいところです。ミギーのイラストも、淡い色合いがこの物語にとてもあっています。